2019.11.18

歴史と共に住み継ぐシックな木造住宅

経年変化も楽しみな無垢材に包まれた空間

北面に開けた敷地を生かし
LDKの南側に吹き抜けを配置

 
O邸が立つのは近江八幡の歴史ある街並みの一角。安土桃山時代から続く城下町であり、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが大正、昭和初期に設計した教会や校舎などの建造物が点在している。景観法による意匠上の制限を受ける地域であることから、外観も切り妻屋根を選んだ。「観光地に住むことになるとは」と住み手のOさん。「海外赴任でアメリカ東部で暮らしていたと き、100年以上経つ建築のほうが不動産価値が高いと知り、なぜ日本では築年数の浅い住宅ばかりが評価されるのか疑問に感じました。そこで自分が建てるなら長く住み継ぐ家にしたかったんです」。Oさんは帰国後、近江八幡の社宅に住むことになり、歴史と共に生きるこの地での生活に共感し、ここに家を建てたいと思うように。代々受け継ぐことが多い地域なので土地探しには苦労したが、ようやく今の土地に出合えた。
敷地の裏となる北側の隣は小学校。校庭を隔てた先に校舎が立っており、ヌケもあることから、あえて裏手にリビングを開くレイアウトにした。「1階の北側部分は暗くなりがちですが、南に吹き抜けを設け、窓を多めに配置することで解消し、プライバシーを確保しながら開放的なLDKにしました」と設計主任である楠亀工務店の田辺俊也さんは語る。
 

吹き抜けの位置を自由に
設計できるSE構法

 
「エアコン1台で一年を通じて快適に暮らせる床下暖房を提案したので、家全体に温度が伝わる吹き抜けは必要な要素でした。吹き抜けは構造上では『欠損』になるため設計はしにくいのですが、SE構法では構造上不利となる建物の角部分にも配置でき、リビングの採光や温熱環境面でも効果 的です」と言う田辺さんの説明に対し、Oさんは「楠亀工務店さんは、デザインよりも居住性や構造計算といった住宅性能について丁寧に解説してくれたのが印象的でした。自分も技術関係の仕事をしているので、直感的に信頼できると判断しました」とのこと。家は消耗品ではないので、完成した瞬間の美しさより、長い目で見た機能性を重 視すべきという考えに共感した。「こちらからの 要望に関しても、メリットとデメリットを具体的 に指摘してくれたので判断しやすかったです。まさに技術者同士のやり取りでしたね」とOさん。
 

月日を重ねるごとに
快適さ、美しさを増す家に

 
O邸を快適にしたもう一つの要因が自然エネルギーを効果的に取り込むパッシブデザイン。「ウッドデッキと庭の位置は、日照変化をシミュレーションして調整しました。午前中は光が当たり、午後は強い西日を遮れる配置です」と田辺さん。真夏でも夕方は涼しく、昼はプール遊びが、夕暮れはテラスでくつろぐことができる。冬は吹き抜けから光を多く取り込めるよう、南の窓を大きくとった。「デザインやコストが重視されがちですが、住んだ後にしかわからない『快適さ』こそ大切。断熱性能、気密性能を向上させれば、住まいの3大不満『暑い、寒い、結露』が軽減され、光熱費にまで影響するんです」と田辺さんは語る。
O邸が目指すのは家族の歴史と共に価値が高まる住宅。床や造作家具も経年により味わいが深ま るオークやパインの無垢材を選んだ。「子供たちが巣立った後も、裏の小学校で元気に駆け回る子 供たちの声を聞きながら老後を過ごせたら」と遠い将来を想像しながらOさんは微笑んでいる。
 

取材・文/間庭典子

O邸

設計施工 楠亀工務店 所在地 滋賀県近江八幡市
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 308.75m²
延床面積 138.60m² 構法 木造SE構法

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