2021.04.12

立地を生かした小川と緑を望むLDK

81.24㎡とは思えない、伸びやかで自然に寄り添う邸宅

緑と水に囲まれた
ロケーションに映えるL字形の家

 
小さな水路沿いに立つ三牧邸は約81㎡の敷地に建てられたコンパクトな邸宅。ターミナル駅から3駅離れた都市部の住宅密集地にある。「最初はお店も多く、街歩きが楽しいエリアも考えたのですが、3駅離れただけで静かな環境になるこの街で正解でした」と語るのはオーガニック・スタジオの社長であり、この自邸を設計した三牧省吾さん。この新居に越してからは家で過ごす時間の豊かさを実感したという。
川沿いに開いた2階のLDKを1階の北側の納戸と東側のエントランスの棟で支えるというプラン。中央は駐車スペースとし、薪のストック棚や川沿いの遊歩道に続く坪庭なども敷地内に収めた。3階に水回りと寝室、ルーフトップに本格的な菜園を配することができたのも、木造でありながら強度を保てるSE構法ならでは。「屋上にはメダカが泳ぐ池もつくり、菜園全体に土も敷きつめています。水や土の重みにも耐え、耐震性が確保できるので、限られた敷地を有効に活用できました」と三牧さん。三牧さんが自由に描いた設計図を構造設計士がチェックをすることで、その強度が保証された。木の個体差に左右されず、強度が統一な集成材を使用しているからこそ、一棟一棟の構造計算が可能となり、数字に裏付けられた耐震構造となるのだ。必要以上の柱や壁で支えることがないため、狭小住宅でも伸び伸びとした大空間が可能になる。
ルーフトップへの階段室も含め、4層となるフロアを貫くらせん階段はオブジェとしても美しい。「真鍮の手すりは鉄骨屋の方の手に負えず、特殊金属加工ができる友人にお願いしました。真鍮の素材感が好きなので、建具の金具など細部の素材にも採用しています。設計士としてのこの家の作品名は、『心鍮庵』ですね」と三牧さんは笑う。
 

全フロアで一つの空間となる
扉も仕切りもない家を実現

 
「この家のもう一つの特徴は、玄関とゲストも使う1階のトイレ以外には扉が全くないことです」と言う三牧さん。2階はLDK、3階は浴室と夫婦の寝室があるが、各フロアと各部屋の仕切りが存在しないという実験的な住まいなのだ。「トイレにもドアがなく、壁も仕切りもないバスルームにしました」と三牧さん。「住んでみるとトイレもシャワーも死角にあるので、視線も気にならず、今まで前例のなかった新しいシャワーやバスタブエリアが実現したことに満足しています」と奥さま。奥さまは水栓メーカーのグローエに勤務しており、三牧邸のキッチンや水回りのコーディネートも担当した。
 

自分のスタイルを追求し
得たのはエコで自由な暮らし

 
「夕暮れ時にバルコニーに出て飲んでいると、風を感じて心地がいいですよ。この小さなちゃぶ台も、ここに合うかな、と思って拾ってきたんです」と三牧さん。常識にとらわれず、自分たちにとって優先すべきことを考えた結果、得たのはエコで自由な暮らしだった。屋上からハーブを摘み、太陽熱集熱パネルの熱を活用し暖房、生活から発生するごみはEMコンポストとして畑へ。また、坪庭を道行く人とも共有し、地域にも貢献する。自分たちが心地よく、快適に暮らし続けられる、サステナブルな家を目指してこれからも進化したいと三牧さんは語る。真の豊かさとは何か、それを問いかけるかのように未来へと進む──。それは三牧邸のテーマにも共通している。
 

取材・文/間庭典子

Y邸

設計施工 オーガニック・スタジオ 所在地 埼玉県さいたま市
家族構成 夫婦 敷地面積 81.24㎡
延床面積 136.89㎡ 構法 木造SE構法

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