2019.11.05

カーデザイナーが建てた 街を見渡す眺望の家

装飾をゼロにしてシンプルを極めたガレージハウス

無駄をすべてそぎ落とした
白に囲まれたデザイン

 
「洗濯機のような真っ白でシンプルな箱がイメージでした」と住み手のXさんは笑う。Xさんは愛知県内の自動車メーカーに勤務するカーデザイナー。デザインに対しては確固たる信念があり、その軸はブレることがない。家を新築するにあたっては、無機質でクリーンな家電製品のようなデザインを望んだ。それは、ライフスタイルやそのときの嗜好によって家はコーディネートされていくもの、という考えから。家は住み手が描く白いキャンバスであり、暮らしを重ねることで個性がにじみ出る。自分たちに必要がないと思われるスペースは大胆に削って、極力コンパクトな空間に。「ご夫婦の住まいですし、収納など最低限必要なスペースは確保しないといけないので、間取りを決めるのに難儀しました」と設計担当のニケンハウジング、森瀬将文さんは当時を振り返る。
その結果、完成したのがシンプルを極めた眺望の家。白を基調にした内装で、床材、階段仕上げは塩化ビニールを使用することで、コストも抑えられている。キッチンは業務用のようなステンレスにし、取っ手や框のない研ぎ澄まされた仕様に。
また、通常なら壁の前面まで伸びている窓枠やドアの枠もなくした。「窓枠がないと壁が汚れるなどメンテナンスの面が心配でしたが、ならば窓枠の代わりに壁の上にアクリル板を置けばいい、というのがXさんの回答でした」と森瀬さん。透明なアクリル板なので白い空間のノイズにはならず、理想通りのまっさらな空間が実現した。
 

分かりやすい便利さより
自分が心地よい空間を優先

 
「便利さを追求して違和感のあるデザインを我慢するよりも、不便な部分は自分たちが動いてカバーするほうがいい」とXさんはきっぱり。デザイナーならではの視点で、トイレや浴室などのアイコン、階段周りのオブジェなどを次々と製作した。
外構や植栽も自ら提案。ゲートはLAの駐車場のようなラフな感じを狙って、アメリカンフェンスという金網に。ガレージの表示や表札もお手製だ。「実はサイドテーブルも市販のゴミ箱に天板を載せただけの手作りです」と語る。無機質な空間をカスタマイズすることで、他にはないスタイリッシュな空間になった。「住み始めてから植物に興味が出てきました。ベランダにたくさんのグリーンを並べて、ジャングルのようにしようと思っています」とXさん。
 

立地を最大限に生かす
街全体を見渡す大開口

 
X邸の最大の特徴は、街全体を見渡せる2階の大開口。開放感のあるLDKと空をつないでいる。立地を生かすため、1階の階高を通常は2.95m程度だが、3.95mまで高くとった。「私の要望は伸び伸びとしたキッチン。昼も夜も眺めが素晴らしく、ゆったりと過ごせます」と奥さま。2台駐車できるガレージを確保した1階は、空間を有効活用できるようにロフトを設け、書斎やゲストルームの収納とした。「今後、どう生活スタイルが変わるか分からないので、1階はフリースペースとし、オープンにしています」とXさん。玄関ホールから仕切りがないので広く感じる視覚効果もある。長寿命のスケルトン(躯体)と変化を前提としたインフィル(内壁)というSE構法ならではの組み合わせは、竣工後にも自由度があり合理的。仕切りや扉を後で付けることもできるし、壁を取り大空間にすることも可能だ。自由な発想でX邸は日々進化している。
 

取材・文/間庭典子

X邸

設計施工 ニケンハウジング 所在地 愛知県豊明市
家族構成 夫婦 敷地面積 235.67㎡
延床面積 136.00㎡ 構法 木造SE構法

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