2016.05.12

眺望を満喫する天空に浮かんだ住宅

眺望を満喫する
天空に浮かんだ住宅

宝塚の高台からの眺望が
なによりの贅沢

ルーバー越しに中庭が透けて見える黒い壁と格子の、キューブ型の外観。門を抜けると中庭にシンボルツリーが、そして玄関へとアプローチが続く。風にそよぐのれんの先にはギャラリーとして利用されている7畳の土間。古い蔵を改装したような重みのあるエントランスだ。「壁は本漆喰です。メンテナンスは必要ですが、100年以上の耐久性があります。漆喰は『呼吸』する建材なので、夏は涼しく、冬は暖かいのです」と設計担当の木内一徳さんは語る。
このN邸が竣工したのは実は10年前。だが、時代を感じさせず今も新鮮な印象を与えている。時を重ねることで、さらにヴィンテージ家具が似合う居空間になった。「家具も食器も、どの時代、どの国のものかにこだわらず、気に入ったデザインを選び、日常で使っています。どれも独身時代からずっと使い続けているものです」とNさん。昭和初期の茶箪笥やロイズアンティークスで選んだアールデコ調のキャビネットなど、自分の審美眼で集めたヴィンテージ家具はテイストが違っても調和している。ヴィンテージと造作家具以外はすべてB&B ITALIAで統一し、モダンさもプラスした。
建物は中庭を囲むコの字型。階段を上がるとシンボルツリーを囲んで、リビング、ダイニングが広がり、視界が開ける。
「ダイニングで食事をしていても、和室で寛いでいても、3つのフロアのあらゆるアングルから中庭を囲んで家族がつながります」とNさんは語る。お互いのシルエットが視界に入っても、音や動きが気にならない距離感。窓越しの部屋からヴィンテージ家具を眺められるのもこのレイアウトならではだ。

内装は極力シンプルに。
住み手のセンスで味付けを

「Tさんご夫妻がスタイルを持っている方々だったので、極力シンプルに、無駄な飾りは排除しました」と蘇理さん。白を基調にした空間は季節ごとに変わる木々の眺めや、インテリアを引き立てるキャンバスのよう。キャビネットにはカメラや好きなCD、廊下にはロイ・リキテンスタインのリトグラフを飾るなど、空間づくりを日常的に楽しんでいる。
キッチンにはミニマルな美しさを湛えるトーヨーキッチンスタイルのスタンダードなモデルを導入。また、長くすっきりと暮らせるよう収納にも工夫した。「今後、収納家具を増やす必要がないよう、リビングに間仕切りにもなるキャビネットや、寝室に扉付きの書棚などを造作しています」と蘇理さん。蔵書数など収納したいものの種類や数を事前に伝え、それにぴったりと合う造作家具をプラスできるのも注文住宅のいいところだ。

心地よさを生み出す
鮮やかなグリーン

アーティスティックな空間を居心地のいい雰囲気にしているのはみずみずしいグリーン。その種類から鉢のデザインまで、宝塚に栽培所をもつ南翠園にコーディネイトを依頼した。「南翠園さんはオフィスや店舗へのリースもしていますが、個人でも気軽に頼めるんです。夏はリビングやお風呂の窓から周囲の青々とした木々が望めますが、秋や冬は少し寂しい風景に。その分、室内に大小の緑を置いています」とご主人。グリーンは目に鮮やかでリラックス効果があるだけでなく、葉から水分が蒸発する蒸散作用が、空気清浄や加湿など、室内を快適に保つ役割をしてくれるという。
ほとんどがイメージどおりに完成したT邸の家づくり。だが竣工後、予定外だったことが一つだけあったという。それは、双子のお子さんに恵まれたこと。どんなバーよりも居心地のいい空間であるT邸のリビングも「昼はにぎやかな子供の遊び場になっています」とうれしそうに語るご主人。室内にいながら庭園にいるようなリビングは子供たちものびのびと過ごせ、ママ友たちも自然と集まるようになった。住宅には珍しい真っ白なタイルも「夏は涼しく快適ですし、冬は床暖房なのでフローリングよりもかえって暖かいのです」と奥さま。天空のリビングは、昼と夜でがらりと表情を変える、家族みんなの居場所となった。

取材・文 間庭 典子

 

T邸

設計 蘇理裕司(住まい設計工房) 施工 住まい設計工房
所在地 兵庫県宝塚市 家族構成 夫婦+子供2人
敷地面積 247.89㎡ 延床面積 185.97㎡
構造・構法 SE構法 規模(階数) 2階建て

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