2020.12.14

里山暮らしを味わう嵯峨嵐山の山荘

梁や柱、格子をあしらった古民家風空間をモダンに昇華

里山暮らしと都の洗練を
同時に楽しむモダンな空間

 
「山の奥深くで自然に囲まれた暮らしがしたかったんですよ」と語るKさん。世界各国で暮らした経験があり、現在も香港を拠点にしているが、憧れの京都に住むことに決め、里山暮らしができる山荘を嵯峨嵐山に新築した。五山送り火でおなじみの大文字の山がテラスや寝室から仰げる「山の京都」への玄関口だ。「当初はもっと山奥も視野に入れていたのですが、実際に住むと京都の中心街へのアクセスも良いこのエリアは便利ですね」とKさん。K邸は里山の素朴さと、都の洗練を同時に楽しめる住まいである。
古民家の梁や柱のような構造部分をあえて見せ、南北に長い敷地には坪庭のようなスペースを設けて陽の光を取り込むなど、京の町家の知恵を取り入れた。圧巻なのは全開式のテラス。ダイニングに座ると嵯峨の山々の風景が目の前に広がる。北側の吹き抜けから採光もでき、風が通り抜けて心地いい。「食卓で過ごす時間が長いので、無理にLDKとして収めるより、階段の下のスペースをサブリビングとして、ダイニングの広さを優先させました」とKさんは語る。中庭の奥をゲストルームを兼ねたリビングとして、民芸家具やヴィンテージの建具などを合わせて、こもるのに最適な空間にした。
 

クリエイティブな居住空間は
香港出身の奥さまのアイデア

 
2階の寝室も山々を望める開放的な間取りだ。山側にピクチャーウインドウを設け、吹き抜けを介して眺められるプランに。階段に面した壁は全面を引き戸にし、開放すると東側の開口部から朝日が差し込む。北の窓際にはカウンターを造作し、朝夕の絶景を楽しめるようにプランニング。「寝室も同じく構造を見せて天井をより高く。一面にはグレーベージュの壁紙を選び、奥行きを感じる空間構成を意識しました」と設計を担当した住まい設計工房の蘇理裕司社長は語る。
へッドボードのように見える枕元の壁面に飾られた立体的なオブジェは香港出身の奥さまが自ら制作。「香港ではアパートメントもスケルトンで購入・借りることが多く、壁やライトなどの内装を自分で手掛けることも多いんです」と奥さま。このオブジェのパーツも香港の内装店で手に入れ、運んできたのだそう。そのセンスを生かして、キッチンカウンターやリビングも機能的で個性のあるデザインとなった。
2階の南側に配した和室は書斎を兼ねた落ち着きのある空間。長く机に向かっても疲れないよう、掘りごたつのようにデスクの下を深くし、手元には自然光が当たるよう前面を開口とした。注文住宅なら既成概念にとらわれることなく、好みやライフスタイルに合わせ、細部まで調整できる。
 

雪の日も雨の日も心地よく
家で過ごすのが娯楽になる家

 
冬は芯から冷え込む嵐山だが、断熱材や機能性の高い窓などの性能と、エアコン1台で室温を保つ全館空調との相乗効果で廊下や玄関も暖かい。桜や紅葉の季節だけでなく、木枯らしや雪景色にさえ風情がある。「雨の日の景色もきれいなんですよ。天候が悪い日でも家で過ごすこと自体が楽しいので苦になりません」とKさんは笑う。気候のいい時期には山歩きを楽しみ、近隣の山はほぼ踏破しつつあるそう。自然と親しくなれ、家で過ごすぜいたくも満喫できる山荘。そんな理想の暮らしが立地を生かした間取りと、最新技術とデザインを極めることにより実現している。
 

取材・文/間庭典子

K邸

設計施工 住まい設計工房 所在地 京都府京都市
家族構成 夫婦 敷地面積 226.60㎡
延床面積 105.47㎡ 構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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