2021.06.21

住み手の感性を引き出す上質な木のキャンバス

蔦の絡まる隣家の借景を生かしたウッドデッキ

土地の魅力、そして住み手の感性を
最大限に引き出すキャンバスの家

 
「『この土地の魅力を最大限に生かす家にしてほしい』というHさんの一言で始まり、ことあるごとにこの言葉に立ち返り、進めていった家づくりでしたね」とミューズの家の藤本卓也さんは振り返る。南側の敷地のラインは真っすぐではなく、その部分だけまるで角が映えたように突き出している不思議な変形地。そして南側の隣地は森のような緑の世界──。「そこで敷地内にも樹木を植えて緑をつなぎ、森の中に飛び込んでいくようなデッキとバルコニーを設けるプランを提案しました」と藤本さん。一方ではその森を引き込むかのように建物をくぼませて、まるで森林浴をしながら生活しているような空間が完成した。窓はこの庭とリンクするかのように、できるだけ大きくしたり、森をのぞき見るようなイメージの出窓にし、緑がいつも身近に感じられるようにした。「心地よい時間が、ゆるやかに流れていくような家です」と藤本さんは語る。まるで避暑地の山荘のようなすがすがしさと、木々に包まれた安心感がある。
庭に面したLDKの壁や天井は、珪藻土の左官仕上げにした。少し荒々しさのある素材感にすることで、内部ではあるが外部の一部のような感覚になり、より庭とのつながりを感じられる。ダイニングの壁や階段回りは軽やかなシナ合板に。「木の箱を組み合わせたようなデザインにしました」と藤本さん。シンプルを極めた内観にはアートを飾ったり、自由に彩られるキャンバスのような空間。ダイニングの出窓は中庭の緑と季節の花や雑貨とのコーディネートを楽しむギャラリーだ。住み手の感性により、幾通りものイメージが広がる。
 

耐震に対する絶大な信頼と自由さ
そのソフトとハードを両立

 
「家づくりにあたって、さまざまな会社の資料を取り寄せました」と語るHさん。施工例は思い描いたイメージに近く、好感ももてたのだが、耐震に対する質問に明確に答えられなかったり、ブランド力や信頼性はあってもなにか物足りない大手メーカーも多かった。「決められたパーツから選ぶだけでは建て売りと変わらないですものね。すでにこの土地の購入を決めていたので、ここを生かす設計者を探していたんです」とHさん。そこで「耐震」をキーワードにインターネットで検索し、ミューズの家に出合った。思いつくままに伝えた希望をくみ取り、かつ敷地を生かしたプランを見たとき、瞬時に「これだ」と納得。耐震だけでなく気密性やメンテナンスなど、持続的な暮らしのための機能をわかりやすく解説してくれたのも決め手だった。「とにかく自由に、楽しそうに提案してくれるのが印象的でした」とHさん。一緒につくり上げる高揚感があったという。
 

生活を豊かにするくつろげる空間、
パートナーの支えでそれが可能に

 
「私たちが求めていたのは豪華さではなく、落ち着き。温泉気分になれる緑を望む浴室や、旅館を思わせる玄関アプローチ、キャンプ場のような緑に囲まれたウッドデッキなど、くつろげる場所を目指しました」とHさんは語る。家にいるだけで家族で楽しい、家で過ごすことが娯楽になる──。それがなによりもの贅沢だと悟った。この夏はウッドデッキでBBQを楽しむなど、外で過ごす時間も多かったという。「まずは躯体をしっかりとつくり、安心・安全を確保する。そのうえで住み手の思いをともに奏でるのがミューズの家のコンセプトです」と藤本さん。良心的な工務店は家づくりの心強いパートナーとなる好例である。
 

取材・文/間庭典子

H邸

設計施工 ミューズの家 所在地 東京都調布市
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 128.46㎡
延床面積 99.41㎡ 構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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