2023.09.04

家族の歴史を紡ぐ桜の木と共に暮らす家

清潔感と落ち着きがあるシンプルシックな室内から庭を愛でる

“家族の記憶が残る家”をテーマに
南庭の桜を愛でる無柱空間を実現

天井高約5mのLDKの吹き抜けは5㎡近く。この部分が部屋全体に光をもたらし、シンボルツリーとなる桜の木を住まいのどこからでも眺められる。「庭の桜は曾祖母が幼稚園を経営していた頃に植えた木です。この土地を受け継ぎ、家族の記憶を残せるような住まいを目指しました」とYさん。10年ほど前に兄がSE構法で戸建てを新築し、その開放的な空間に共感。自分が建てるときも、そんな家が理想だと感じた。そこで、建て替えにあたりその家を設計したカサボン住環境設計の井田晋介さんに依頼。施工は参創ハウテックが手掛けた。「この桜を設計にどう生かすかがテーマでした。無駄のない無柱空間や大開口を可能にするため、木造SE構法の1階は有効です。そこで庭に面し、広い開口部を設けて、LDKのどこにいても庭が視界に入るようにしました」と井田さんは語る。吹き抜けからは柔らかい光が注ぎ、2階のカウンターデスクからも桜の木が眺められる。玄関ホール正面を巨大なピクチャーウインドウのような開口にし、眼前に桜の木が飛び込んでくるような仕掛けにした。この眺めを生かすには、できるだけシンプルにまとめること─。「無駄な動線を省き、無駄なスペースをつくらず、無駄な素材も使わないことです」と井田さん。Y邸ではフローリングにオーク材を選び、オーダーキッチンの扉や家具面材、1階の窓枠など徹底して同じ材質に統一。ガレージ部分の外壁タイルから玄関ホールに続く室内の壁も同じ素材を採用した。

耐震・温熱性能を高め
快適に過ごせる室内環境に

また、耐震性能や温熱性能をできる限り高めつつ、設備はシンプルに。夏の日差しを遮り、冬の日射を最大限に生かすパッシブデザインを意識し、暖房計画にはパッシブ冷暖システムを採用した。具体的にはS.I.C.の床にエアコンを設置して1階の床全体を暖め、床の吹き出し口から温かい空気を流す。階段と効率のよいコンパクトな吹き抜けのダブルボイドによって空気を循環させ、室内全体を快適に保っている。「参創ハウテックでは、温度ムラのない室温のバリアフリー化に取り組み、断熱・気密性の向上と、パッシブデザイン設計に特化しています」と清水康弘社長は語る。さらに「断熱性能の向上は、一次エネルギー消費量を大幅に減らして二酸化炭素の排出量軽減に寄与し、地球温暖化対策にもつながります」と清水社長。参創ハウテックが手掛ける住宅では、北海道と同じレベルの温熱環境グレードを標準仕様としている(HEAT20のG2以上)。

無駄のない快適空間は
思い出の品を飾るギャラリー

常に心地よい室内環境を誇るY邸。もう一つの魅力は、家全体が家族の思い出に触れられる空間であることだ。「階段の踊り場の窓のステンドグラスと玄関近くの洗面台の高窓は、祖父のクリニックにあったガラス材をリユースしました」とYさん。ステンドグラスはフランスで学び、活躍した巨匠、松田日出雄の価値あるピースだという。キッチンに飾った時計は木彫りが趣味のお母さまの作品で、オーク材のシックな空間に調和。キッチンカウンターの一部はショーケースのようにして、使い続けているティーセットなどを並べ、見て、使って長く慈しんでいる。思い出深いシンボルツリーの桜の木が見守るY邸は、家族の歴史と共に歩む、地球環境に優しいサステナブルに配慮した暮らしを実現している。

取材・文/間庭典子

Y邸
設計施工 カサボン住環境設計/参創ハウテック 所在地 東京都杉並区
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 232.56㎡
延床面積 183.29㎡ 構法 木造SE構法

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