2024.01.15

庭の延長として存在するカフェ風エントランス

家族やゲストを迎えるゲートのような役目を果たすガレージ

 
「毎日、緑に囲まれた庭から出かけて、庭へと戻ってくるような生活ができたらいいな…というのが最初に思い描いていた理想の家のイメージでした」と語るAさん。
シャープで機能的、ともすれば無機質になりがちなガレージだが、A邸はカフェかレストランではないかと道行く人が思わず足を止めるほど、フォトジェニックなデザイン。大開口のゲートのようなエントランスの奥には花や新緑、紅葉などで季節の移り変わりを感じられる坪庭が設けられている。夏にはここにプールを置き、水を張って涼むなど、子供たちの遊び場にもなっている。門柱の右側には、アウトドア用品などを収納する物置を設けた。「ちょうどコロナ禍の最中に建てたので、ガレージの内部や室内のフリースペースは、外でできなかったことを自宅でも楽しめる居場所となり、助かりました」とAさんは当時を振り返る。まだ若木だったさまざまな種類の樹木もすくすくと育ち、見事に生い茂っている。
 
 
Aさんが仕事場から帰り、ガレージに駐車すると、キッチンの小窓から中の様子がうかがえ、気持ちがほぐれるという。玄関の扉を開くと正面には庭が広がり、廊下からLDK、浴室へと庭を囲むような間取り。家族で集まる1階は仕切りで区切らず、柱が少なくても強度が保てるSE構法によって、のびのびとした大空間をつくった。育ち盛りの男の子3人と暮らすにぎやかな家庭だが、LDKをすっきりと保つためにも奥に多目的スペースを設け、通学関係の荷物や遊び道具などを収納場所としてここにまとめた。多目的スペースは放課後は勉強コーナーになり、トレーニングを日課としているAさんのプライベートジムとしても活用されている。また、浴室からはウッドデッキに出られて、入浴後は夕涼みも楽しめるそう。A邸の中心はこの庭となっている。
 
 
敷地のほとんどが道に接しており、東西に間口の広い個性的な形状。そのため、当初は壁で完全に囲む外壁を想定していた。その後、LDKと同じスリットウォールを外壁にも採用するアイデアが提案されて、住まいの中からも外の気配を感じる外観が実現した。壁には幅がそれぞれ異なるスギ材を貼り、凹凸による風合いを感じる仕上げにしている。昼間はナチュラルに、夕刻時は照明の演出によってドラマチックな陰影が生まれ、がらりと住まいの表情が変わる。
 
 
「このエントランスで奥のカーポートを隠しているんですよ」とAさん。冬に積雪量が多い燕三条エリアでは、ガレージに雪除けのためのカーポートは不可欠である。頑丈だが武骨な印象を与えてしまうスチール素材のカーポートをゲートのような囲いでカバーするアイデアは、社長の星野貴行さんから提案されたものだった。実は設計施工を行ったroomz星野建築事務所は、住宅の設計・施工にとどまらず、たくさんの商業建築も手掛けた実績をもつ。例えば、新潟にある「カーブドッチ」内のSE構法を生かしたラグジュアリーな宿泊施設「ワイナリーステイ トライヴィーニュ」など、訪れる人の心を感動させる舞台づくりにも定評がある。それらの経験に基づく快適性や機能性のノウハウは、住宅と一体化したダイナミックなファサードなど、この住宅のプロジェクトにおいても各所に応用されている。
 
 
日常に少しだけ非日常の要素をプラスする──。そんなプロの英知によって、住み手はもとより、ゲストや道行く人たちにもワクワク感を運ぶ住まいとなった。

取材・文/間庭典子

A邸
設計施工 roomz 星野建築事務所 所在地 新潟県三条市
家族構成 夫婦+子供3人 敷地面積 413.24㎡
延床面積 216.31㎡ 構法 木造SE構法

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