庭や畑へとつながる土間リビング
ししとう、きゅうり、パプリカ、オクラ…。色とりどりの野菜はすべて隣接した畑で朝、収穫したもの。自然豊かな湘南の地で野菜も人もすくすく育つ。
両世帯は土間リビングを介してつながる。簡易キッチンとしても機能し、1階は親世帯の寝室や浴室も配しているので、平屋部分だけで暮らせるプラン。
約4.1mの天井高で高窓からも採光。パーテーション代わりになる書棚の奥にあるルーフバルコニーからも光が入るように設計。天候に関係なく明るい。
ウッドデッキと一体化したセカンドリビングから1段下がった位置にメインリビングとDKがある。書棚の奥はさらに1段下げ、こもれる空間にした。
1.機能性を重視したアイランドキッチン。壁面に造作したキャビネットやパントリーで収納も充実。/2.土間リビングの吹き抜けに浮かぶような格子床のブリッジ。写真奥の子世帯と親世帯のLDKをそれぞれつなぎ、家族が自由に行き来できるようにした。水平構面を確保するため、格子床の下部にはスチールブレースを設置。ヌケ感と構造上の強度の両方をかなえた。
3.書棚の奥は隠れ家のような絨毯敷の床座のスペース。畑に面したウッドデッキと同様、うってつけの遊び場になった。/4.子世帯の子供室や寝室、W.I.C.など必要となるプライベートな場所は1階にコンパクトにまとめた。
子世帯にあるインナーテラスは南側の親世帯の屋根やバルコニーと一体化し、ヌケを強調。晴れた冬の日には富士山も望める最高のロケーションとなる。
土間リビングにある和室は、兄弟一家が滞在するときなどのゲストルームに。縁台はなぐり加工で仕上げ、風合いを出した。お兄さまの陶芸作品が際立つ、シンプルシックな和室。手すりも無垢材で造作し、デザインの一部とした。
5.玄関側の外構や植栽は以前の住まいで使用していた石材などを再利用し、雑木を植えてその成長を楽しむことに。木材は、鉄道で使われていた枕木。/6.子世帯専用の玄関と土間リビングにつながる玄関を分け、2つの動線を設けた。
親世帯の2階LDKは無垢材で統一しナチュラルに。孫たちが過ごすことが多く、窓際には絵本やおもちゃの棚などのほほえましいコーナーもある。
庭から見た緑に包まれた外観。
高窓や大開口、バルコニーから日が差す日だまりのリビング
1棟に2世帯が共に住み
次世代を育む住まい
自然に恵まれた湘南エリアに立つS邸は、親世帯、そして伸び盛りの子供を育てる子世帯が一つ屋根の下で暮らす。2世帯住宅は1階と2階で住み分ける上下分離が多い中、S邸では並列の構成とし、玄関ホールを拡大した開放感のある土間を、共通のリビングとしてつないだ。土間リビングの吹き抜けには、北側の子世帯と南側の親世帯を2階でも気軽に行き来することを可能にするブリッジがあり、大きく開いた西側の絶景を取り込んでいる。この土間リビングは庭に隣接した畑から収穫するときなど、農作業の合間の休憩場所としても活用できるスペース。簡易キッチンも設けられており、晴天の休日には家族全員が集まって食事を楽しむこともあるという。このようにさまざまな用途で機能する多目的なスペースになっている。
南にある親世帯の住居は、1階に寝室や浴室を配し、眺めのいい2階をLDKとした。無垢材でコーディネートし、クリーンで軽やかな北欧調の空間では、放課後に孫たちが過ごすことが多く、いつもにぎやかだそう。さらに土間の北側はシンプルモダンな和室で、離れて住む家族が滞在しやすい独立した客間が設けられた。また、将来は1階だけでも生活できるよう考慮した間取りでもある。床の高さを低めに設定し、デザインとして優れた無垢材の手すりを設置するなど、バリアフリーにも対応できるつくりになっている。
北は、子世帯のエリア。それぞれに専用玄関を設け、2階のブリッジだけを親世帯のエリアをつなぐ動線にすることで、空間を明確に分けた。1階に寝室やW.I.C.など生活に必要な機能をまとめ、2階全体を大空間に。東には床座ができる空間を設け、1段上がる高さにLDKがある。さらに数段上げた小上がりにはセカンドリビングをつくり、その延長は絶景を取り込むウッドデッキを。ここには屋根をつけて、天候に関係なくアウトドアで過ごせるようにした。大空間に少しずつ高低差をつけることで、住まいのどの場所からも西側の景観を楽しめるうえに、さりげなく各空間をゾーニングすることにも成功している。
「当初は木造在来工法で、土間リビングの真ん中に柱を立てる予定でした。2つの世帯を大きな吹き抜けでつなぐ空間構成にも構造的に確信が持てませんでした。そこで、安全性を確保しながらも、柱のない大胆な空間を表現できる木造SE構法を採用することになったんです」と平成建設の設計担当、山田 徹さんは振り返る。2つの世帯をつなぐ浮遊したような木格子のブリッジは、Sさん一家の要望だった。
「水平構面を確保するために格子床の下部にスチールブレースを設け、抜け感と構造上の強度を確保しました」と山田さんがこのブリッジの強化と快適性の理由を詳しく解説。数値に表れる強度は安心感ともなり、ためらうことなく大胆なプランを進められたという。
アウトドアで過ごす爽快さと
空間づくりの楽しさをサポート
外で過ごす時間、ものづくりが好きだというSさん一家。そんなライフスタイルをサポートすることが平成建設の使命だった。デザイン家具やアートが映え、コーディネートが楽しくなる、まっさらなキャンバスのような空間──。リビングでも土間でも、さまざまな場所から西側の景観を望めるよう配慮した。「畑、庭、土間、キッチン、和室。そこでは、つくり、食べ、遊び、語らい、休み、寝る。2世帯住宅の枠を超え、多くの人が集まる、コミュニティを内包するおおらかな住宅が完成しました」と山田さんは振り返る。
取材・文/間庭典子
S邸
設計施工 | 平成建設 | 所在地 | 神奈川県 |
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家族構成 | 両親・夫婦+子供2人 | 敷地面積 | 298.00㎡ |
延床面積 | 235.61㎡ | 構法 | 木造SE構法 |