2024.06.10

空間を広げる勾配天井のドーマーと中央階段

オランダ滞在時のイメージを再現した家具を主役にする、ほがらかな大空間

勾配天井とLDKの東側に配したダイニングの部分の上部にあしらわれたドーマーウインドウ(以下、ドーマー)が印象的で、広々とした開放感にあふれているM邸。ドーマーはヨーロッパ建築でよく見られる意匠で、天窓のような効果をもたらし、冬でも十分な太陽光、熱を取り込むなどのメリットがあり、通気性も格段にアップする。実は、オランダに赴任していた経験がある住み手のMさん一家。狭小でも圧迫感がなく、建物自体は古くても、冬場のマイナス20℃の環境下においても快適だったオランダの家に感銘を受けたそう。そこで、奈良の新居はその心地よさやインテリアを再現し、設計コンセプトを「原風景の再現」として、フクダ・ロングライフデザインに家づくりを依頼した。
 
 
オランダでは上質な椅子を代々受け継ぎ、使い続けるなど、美しく機能的にデザインされた家具が日常と共にあったという。「装飾を抑え、機能美がありながら厳かな雰囲気を感じさせる室内空間が理想でした」とMさん。そんなMさんが愛用する家具は、同じくヨーロッパのブランドであるカール・ハンセン&サンのソファやフレイムのライトなど、置いているだけでオブジェとなるようなデザイン性の高いものが中心。長く使い続けているダイニングテーブルの風合いになじむキャビネットはヴィンテージのもの。時代や国などにはこだわらず、好きな器や雑貨を自由に並べ、コーディネートしている。これらの上質なデザイン家具がインテリアの主役となるよう、窓枠も無垢材を選び、自然素材に包まれた柔らかな空間を目指した。
 
 
こうして完成した住まいは、1階に配した27㎡のLDK全体をカバーする最大4.5mの天井高の吹き抜けが圧巻。階段はあえて中央に配し、リビングとキッチンダイニングを緩やかにゾーニングしている。スケルトンの鉄骨階段は軽やかで、大空間を仕切るような位置にあっても圧迫感はない。背の高いMさんがダイニングとリビングも余裕をもって行き来できるよう、階段の角度、高さを計算。このゆとりがあるからこそ、中央に階段があってもストレスにならず、広い空間を見通せるヌケのよさも確保した。また、サイクリングが趣味のMさんのトレーニングスペースでもある土間収納とリビングの境にも窓を造作し、光は通しても視線を遮ることができる型板ガラスを採用。奥行きを意識させることで、リビングがより広く感じられる。
 
 
スケルトン階段に続く2階は子供室と寝室とした。これらの空間でも窓が特長だ。子供部屋は吹き抜けに面した窓を設け、机に座っていても内窓とドーマー越しに緑が見える特等席に。また寝室には床から近い位置に窓があり、視線は交わらないが階下の気配は感じられ、1階の光を室内に取り込める。ベッドの上となる位置には天窓があり、朝は太陽の光で目覚め、夜は星空を眺められるというメリットも。内窓を適度に配することでさらに空間が広がり、家全体で包み込まれるような安心感が生まれた。「余白を残した空間づくりが実際の面積以上に広い印象を受ける住まいとなり、やんわりと区切ることでご家族全員が心地よい距離感が生まれました」とフクダ・ロングデザインの設計担当者、千知岩賢二さんは語る。
 
 
ここはヨーロッパの邸宅かと思ってしまうほど、おおらかで穏やかな時間が流れ、温かみのある木の素材感に包みこまれた空間。Mさんの理想の暮らしが日常となって、確かに存在している。
 
 
取材・文/間庭典子

M邸
設計施工 フクダ・ロングライフデザイン 所在地 奈良県奈良市
家族構成 夫婦+子供1人 敷地面積 241.32㎡
延床面積 102.62㎡ 構法 木造SE構法

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