2024.03.11

LDKと家族をつなげるスキップフロア

縦へ、奥へと空間の拡張を可能にするフレキシブルな構造

約500㎡の豊かな敷地を生かしたほぼ平屋という、ゆとりのあるプランが採用されたO邸。玄関ホールの扉を開くと広がる、あえて構造の躯体部分を現しとした大空間に圧倒される。勾配天井は、最も高い部分の天井高が5.4mという開放感。床のナラ、壁や天井のオークなどの無垢材と、重厚なダークグレーの壁がバランスよく調和している。
壁は同系色にまとめつつも濃淡を付け、テレビを設置した正面の壁はあえてセメントの質感を生かした窯業系の外装材を採用するなど、質感の違うアクセントウォールにすることで変化を創出。この壁は外壁まで連続しており、このように室内外を同素材にすることでLDKがテラスや庭まで拡張しているかのように見える。空間をより広く見せるための効果的な設計施工上のテクニックといえる。
 
 
さらにLDKは床座ができる畳のコーナーを取り入れたり、キッチンカウンターの裏やダイニングなどは水にも強い600㎜角のタイルでさりげなくゾーニングされている。これにより大空間が単調にならず、居心地のよさにつながるリズムが生まれた。このスペースは約65㎡あり、間仕切り壁や柱などが一切なく、南側の大開口から太陽の光が注ぎ、日中は常に明るい。家族が集うリビング部分には、ペレットストーブも置かれている。
 
 
「柱のない大空間で、伸びやかなLDKをというOさんからのご要望を叶えました。またキッチン奥からの階段で、スキップフロアに宿題や読書に集中できるスタディコーナーを配したのが、工務店としてのこだわりです」と関工務所の設計担当、北爪俊之さんは語る。広がりのあるLDKの奥行きがさらに続くような視覚効果を狙ったプランニングは絶妙。実際の目線よりも上に空間がヌケていることで、さらに開放感が生まれている。
 
 
「キッチンに立っているとき、他の場所にいる家族とは互いに視界に入りつつも、目線はぶつからないので、お互い調理や勉強に集中できる絶妙な距離感が保てる位置関係なんです」と奥さま。カウンターデスクはあえてキッチンに向く配置とし、格子で囲んだ。壁側には書棚を配置。棚の一部は窓になっており、借景の緑や自然に差し込む光でリラックスできる。
また、階段部分はそのままベンチとなるように設計されているため、お子さんが幼い頃は読み聞かせの場、成長した現在では、各自が本の世界に入り込めるようなファミリーライブラリーとして活用されている。その奥には将来の子供室を配置した。ほぼ平屋であるO邸だが、あえて独立させた2階の部屋は、離れのように程よい距離感を保つこともできる。
 
 
さらにLDKの奥には寝室、Oさんの趣味であるギターを演奏し、コレクションを展示する音楽室が設けられた。「ご主人のバンド活動で音合わせもできるよう、防音施工をした本格的なスタジオなんです」と北爪さん。また、共に医療従事者のOさんたちは蔵書や資料も多いため、寝室までの動線上にも収納棚があり、スキップフロアにあるものとは別の「保管する書庫」も設けた。
 
 
コロナ禍以降、自宅でも上質な時間を過ごせるようにとプロ仕様のスタジオやプライベートジム、音響設備の整ったホームシアターなどの需要が増えたという北爪さん。このO邸もその例にもれず、LDKやテラスに集いながらも、個と向き合える趣味的空間も兼ね備え、そのどちらも自宅で過ごす時間を豊かにする貴重な場となっている。
 
 
取材・文/間庭典子

O邸
設計施工 関工務所 所在地 群馬県前橋市
家族構成 夫婦+子供1人 敷地面積 495.90㎡
延床面積 210.74㎡ 構法 木造SE構法

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