2023.09.19

ガラスの階段を介してLDKとつながるガレージハウス

ガラスの天井越しに光が届き、家族をつなぐガレージハウス

 
「ガレージ付きの家ではなく、家が付属したガレージで暮らすという感覚ですね」と完成した住まいについて、楽しそうに語ってくださったSさん。S邸の中心に位置しているのは、愛車・ホンダS2000だ。車が好きで、ドライブと同じくらいカスタマイズの時間を楽しむSさんの新しい住まいへの要望は、「どこからでも愛車を眺められる家」。つまり、車と住空間が同じフロアにあるような、大好きな車と共に過ごせるリビングなどを想定していた。しかし奥さまは、調理や食事をするときにガレージの床が視界の先にある間取りには非常に抵抗があったという。
そこでSさんの家づくりの依頼を受けたroomz星野建築事務所社長の星野貴行さんは、2階のLDKから愛車が見える開放的なビルトインガレージというプランを提案した。具体的にはガレージ部分の天井の一部を大きな高窓としてガラス素材にし、外部からはガレージ、そしてLDKが一続きで見通せる仕掛けに。その結果、2階からは愛車のドライビングシートを見下ろせる楽しさが生まれた。また、ガレージに接するようにプランニングしたW.I.C.の一部は、ガレージ側に大きな開口部を設け、Sさんの書斎とした。机に向かいながらこの開口越しに愛車を眺め、共に過ごすことができる。さらにこの場所から住まい内部への採光も綿密に計算されており、一石二鳥のアイデアが冴えわたる空間である。
 
 
ガレージでメンテナンスに熱中する時間が多いというSさん。ガレージ内は常に快適で、季節や時間を問わずに作業に没頭できる。ガラスの高窓で住まい内部とは仕切られているため、排気やにおいも気にならない。シートのベストポジションを調節しているうちに気が付くと1時間も経ってしまっていたこともあるそう。とはいえ、1階と2階の気配を互いに感じられるため、リビングで過ごしている家族と緩やかにつながる装置でもある。ハイサイドライトから外部の光を通し、住まいへの採光の役目も果たす。カフェスペースとして活用しているバルコニー、リビングを囲む高窓との相乗効果で、日中は照明が必要ないほど常に明るい。さらに夜はガレージのシャッターを開放していると、大きなランプがともっているようなリビングの温かな光が帰宅した家族を出迎えてくれる。
 
 
住まい内部は、ほぼ中心部分にガレージと視覚的につながる階段の踊り場が存在する。階段はパブリックなLDK方向と、子供室などのプライベートな空間へと続く2方向へとV字形に伸びている。この空間の広がりやヌケが、より開放的に見せる視覚効果を発揮。ちなみにお子さんたちが幼いころは、このガラスの階段エリアをすべり台のようにして遊んでいたという、この家ならではのほほえましいエピソードも生まれた。LDKのインテリアは外観やガレージのシャープさと調和するよう黒のフレームなど硬質な素材を選び、ディープブルーをアクセントカラーとした。アイランドキッチンに合わせて造作したカウンターテーブルは、ステンレスで統一。床は深みのある色調と木目が独特な唐木、タガヤサンを選んだ。神社仏閣の装飾材としても重宝されてきたタガヤサンは木のダイヤと呼ばれるほど硬く、独特の風合いで、車に負けない重厚な存在感を放つ。
このようにS邸は、家の中心に据えたガレージが違和感なく、居心地よく過ごせるための役目を果たしていることが非常にユニーク。家族の個々の時間を大切にしつつ、緩やかにつながる開放的なガレージハウスが実現した。

取材・文/間庭典子

S邸
設計施工 roomz 星野建築事務所 所在地 新潟県新潟市
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 190.73㎡
延床面積 166.45㎡ 構法 木造SE構法

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