2023.10.10

半屋外のフリースペースとして多目的に使うガレージ

絵を飾り、マシンを置き、冷蔵庫もあるガレージは多目的の土間スペース

 
家族と共に東南アジアに赴任し、10年近く仕事をしてきたSさん。日本への帰任が決まり、帰国後の住まいを都内で新築することにした。建築を予定した土地は間口が狭く、奥にいくほど広くなる扇形の変形地。ここにビルトインガレージと子供室、主寝室そしてLDKと書斎のある住まいを建てる計画だった。変形地のためハウスメーカーの規格型の住まいでは敷地が効率よく使えないだろうと考えたSさん。木造でありながら耐震性の高いフレキシブルな大空間が確保でき、しかも1棟ごとに構造計算をするというSE構法に魅力を感じて、テラジマアーキテクツに設計を依頼することにした。
「東南アジアで住んでいたのはいずれもマンションで、天井の高いゆとりのある空間が特徴的でした。日本の住宅事情では同じようにはいきませんが、やはり吹き抜けは欲しかった。それから、南向きにこだわるつもりはなかったですね。熱帯地域では日照はむしろ避けたいもので、その感覚が身についてしまっていましたから。加えてガレージは来客用も含めて、3台分は確保したかったです」とSさんは言う。
 
 
依頼を受けたテラジマアーキテクツの提案は、敷地の形状をなぞった台形の建物にして土地を余すところなく有効に使うもの。2階の吹き抜けの外側にバルコニーを設け、空の眺めを楽しむとともに高い位置の窓から明るい光を導いた。南に当たる道路側にはプライバシーを確保する意味もあり、窓は設けていない。キッチンはアイランドタイプにして、背面の天井までの大容量のカップボードと共に空間に合わせてオリジナルのデザインとした。台形で壁が斜めになる建物だけに、既製のものでは無駄なスペースが生まれてしまう。結果として造作ならではのすっきりと無駄のない納まりとなった。カウンターのあるキッチンには、いつも子供達が集まっておしゃべりをしたり、食事の支度の手伝いをしている。さらに1階に設けたガレージは、想定した以上に利用価値が高かった。
 
 
「計画段階では、はっきり意識していなかったのですが、暮らし始めてからは単に車の駐車スペースというのではなく、多目的に使う場所になっています。しっかり断熱し、エアコンを取り付け、コンセントも多めに用意していたのがよかったですね。天井には木を張り、壁も黒で仕上げたので、居室のような雰囲気があります。似合いそうなので絵も一枚掛けました。ガレージというよりは、半屋外のフリースペースですね。使い方はいろいろあると改めて感じています」とSさん。特に天井へ木を張ったことはこだわった点の一つだったそうで、外玄関から内部へとデザインの連続性も美しい空間が実現した。
 
 
現在このガレージにはトレーニングマシンを置いたり、書斎に入りきらない書類をいつでも取り出しやすいようにして収納している。冷蔵庫もあるので、鮮度を保ちたいものを車から降ろしてすぐに保管するにも便利だという。お子さんの一人は、ここをスタジオのように使って友人とダンスのレッスンに励んだ。
一般的にガレージといえば誰もが車を置くところと考えて疑わない。しかしながら“多目的の土間スペース”と視点を変えれば、家族それぞれにさまざまな使い方が生まれる──。S邸はガレージが暮らしを楽しく演出するものになり得ることを雄弁に語っている。

取材・文/酒井 新

S邸
設計施工 テラジマアーキテクツ 所在地 東京都
家族構成 夫婦+子供3人 敷地面積 151.77㎡
延床面積 282.98㎡ 構法 木造SE構法

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