豊かな自然が包み込む伊豆高原の山荘
開口部を全開にすると室内とウッドデッキがシームレスにつながり、アウトドアにはもう1つのダイニングスペースが。海風を感じながら食事を楽しむことができる。
堂々たる枝ぶりの20m超の木々も、Kさんがこの地に魅せられた理由の1つ。できるだけ伐採せずに既存の樹木と共に暮らせる設計を希望した。もともとあったタブノキはシンボルツリーとなり、プライバシーの確保にちょうどよい目隠しにもなった。奥には雑木林をそのまま生かした遊び場も設けられた。
海側だけでなく山側にもまた大開口を設け、どのアングルからも緑を楽しめる邸宅が実現した。
1.LDK全体が吹き抜けという贅沢な大空間。天井高5m以上という開放的なキッチンからは海や山々を見渡せる。/2.伸びやかな大空間を生かすために、軽やかなスケルトン階段を採用。階段を介して見える木々の緑が目に優しく、常に明るい。
高台に位置するため、視界に入るのは海と緑の木々だけ。宙にせり出したような天空のテラスで遊び、安らぐ贅沢な時間が日常的に存在する。
プライバシーが守られる立地条件であるため、洗面や浴室などの水回りも海側を大開口にして開放的につくられた。四季の景色が楽しめる、美しくてさわやかな空間。
温泉を引いた展望風呂の浴槽は300㎜角の御影石で造作。水音が心地よく響くよう、湯口の高さも緻密に計算して調整している。
斜面に立つK邸は、俯瞰して見るとさまざまな木に囲まれ、守られていることがわかる。樹高20m超の巨木も。
玄関は無垢材を多用し、ぬくもりを感じるデザインに。全館空調を採用し、玄関から階段まわり、LDKへの仕切りがないオープンな空間を実現。扉がないので、格子でさりげなく目隠しをした。
テラスのある2階の寝室。日中はこの書斎で業務に集中する。森のなかに佇む高級リゾートのような落ち着きと、オフィスの機能性を両立させた。
寝室と並んだ子供室もバルコニーへと続いている。造作したカウンターデスクの前の室内窓からLDKの様子をうかがうことができる。
家全体を包み込む鮮やかな緑が、何よりの“ごちそう”
静岡県伊豆高原に立つK邸は、大開口からの借景が見事な住宅。樹齢を重ねた木々に囲まれた緑豊かな景色、視界を遮らない水平線を望む高台からの眺め、通り抜けていく光や風…。この土地がもつ自然の豊かさを最大限に生かすべく計画された。
圧巻なのはウッドデッキへと続くLDK。LDK全体がダイナミックな吹き抜けとなり、3面に大開口がある。シックなダークブラウンの梁をデザインの一部にすることで、白をベースにした大空間を引き締めるアクセントになった。さらにここには照明を設置し、メンテナンス面でも効率がアップ。約5.4mの天井高で70㎡もの広さの開放的なLDKと階段まわりの空間を柱なしで実現するため、構造計算によって安全性が確認できるSE構法を採用している。耐震等級3を獲得し、長期優良住宅にも認定された。
ダイニング側の開口は外部と一体化する連続8mのオープンサッシを採用。全開するとオープンカフェのようにダイニングが拡張する。テラスは屋根付きで、小雨でも日差しが強い日でも外で快適に過ごせる。「別荘としてこの山荘を建てるとき、テラスでBBQを楽しみたいと思い、内装や家具よりも先に購入を決めました」とKさんが語るプロ仕様のBBQグリルを活用し、今では週に1回はテラスでの食事が習慣なのだそう。獲れたての野菜や海鮮、希少な伊豆牛などこの地域には地産の食材が豊富。あぶりながら、テーブルを囲むとワインもすすむ。おいしい時間を過ごすテラスであることを想定し、面積は約40㎡と広めに設けた。
浴室には温泉を引き、海側と森側の2方向に開かれた展望風呂に。御影石で造作した浴槽は高級旅館さながらの風情がある。熱海や伊豆高原など、数々のプレミアムな別荘を手掛けてきた梅原建設が真骨頂を発揮するのが、このような非日常を感じられる絶景温泉のプランニングだ。「掛け流しの温泉の湯口の高さによって湯の滴る音の響きも変わってきます。高すぎると飛沫が飛ぶのでメンテナンス面にも影響するんです」と設計士の小杉慎治さん。どんな温泉風呂にしたいのか詳しくヒアリングして、調整していく。デザイン性の高い空間づくりこそ、工務店のそれまでの実績と設計力が発揮される。
2階には寝室など、家族が個の時間を過ごす空間を配置した。子供室には1階のLDKとリンクする室内窓を設け、お互いの気配が感じられるようになっている。竣工当初は休日の臨時オフィスとしていた寝室の書斎も、次第に森に囲まれて会議に参加するリモートワークの場に。どの部屋も緑に包まれ、くつろげる環境に。寝室と子供室にはルーフバルコニーがあり、1人で過ごす時間も木漏れ日を眺めながら快適に過ごせる。
実は当初、休みごとに通う週末住宅にするはずだったKさん。しかしこの地の緑に囲まれる心地よさ、海の幸にも山の幸にも恵まれる食材の新鮮さ、都会とは違う速度で時が進む健やかな環境に魅了され、次第にここを拠点にした生活になった。さらに伸び伸びと学びながら、知的好奇心が刺激されていくという都会とは異なる伊豆の教育環境の豊かさにも気付いた。そして、お子さんの転校を機に、完全にこの山荘を家族の暮らしの主拠点にすることを決めたという。
この大英断の結果、自然と接することで、何げない作業や家事がストレスフリーなひとときとなり、Kさん一家の日常の暮らしがかけがえのない上質なものへと確かにアップデートされている。
取材・文/間庭典子
K邸
設計施工 | 梅原建設 | 所在地 | 静岡県伊東市 |
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家族構成 | 夫婦+子供1人 | 敷地面積 | 3336.27㎡ |
延床面積 | 197.70㎡ | 構法 | 木造SE構法 |