2023.05.22

室内庭園を中心とした光きらめく広尾の邸宅

リズミカルな空間構成で、暮らしの中に多彩なシーンが生まれる

家の中心の中庭を光庭として採光
春夏秋冬くつろげる場所に

「住宅の既成概念を超えた居住空間をいつも提案しています」と胸を張るクウェストの可児義貴社長。多くのホテル設計にも携わってきた実績を生かして、自宅であっても、ホテルに滞在するかのような上質な時間が流れる空間づくりを進めている。JR恵比寿駅から徒歩圏にある恵まれた立地のF邸も、その成功例。「唯一無二で上質」をテーマに、室内庭園、光庭を中心としたアーティスティックな都会の邸宅に仕上げた。
門を開くとLDKへと続く階段が眼前に現れる。公道に面した地上階はビルトインガレージとなっていて、数段上がると重厚な一枚板を使用した第2の扉がある。そこで目の前に広がるのは、陽光が降り注ぐ光庭。庭といえども室内にあるサンルームのような空間で、天候に左右されず温度や湿度が一定に保てるため、植物も育てやすいというメリットがある。「当初、東側を庭園にする予定だったのですが、可児さんに『庭なんていりません』と断言されたんですよ」と奥さまは笑う。可児さんの過激な意見に戸惑いながらも、都心の庭は快適ではない気候の時期も長く、虫も気になり、外で過ごす機会がほぼない――ならばリビングの一部として過ごせる室内庭園のほうがよいのではだろうないかという判断に納得。光庭を囲むプランを採用することになった。

大理石の光沢に負けない
ラグジュアリーなLDK

F邸の光庭と東側の大開口に挟まれたLDKは、常に明るく心地よい環境が広がっている。地上階となる道路に面したビルトインガレージがあるため、リビングとダイニングの間にできた段差を生かしたのがF邸の特徴。「ダイニングキッチンの床は大理石調タイル、壁は表情のある白い塗装を施して美術館のような重厚さを演出しています。3種類のクロスの上から塗装し、ふっくらとした風合いに仕上げているんです」と可児さんは解説。幅8.5m、高さ2.4mのダイニングの壁一面に、グレー調のカラーガラスを貼り付け、階段の踏み板分の開口をくり抜くという高い技術を要する細やかな細工で、段板を差し込む仕上げを実現。ガラスの板から直接、持ち出しているユニークでフォトジェニックなデザイン階段となった。
その階段で2階へと移動すると、宙に浮いたように見えるライブラリーが登場する。手すりを見通せる強化ガラスにすることで、より軽やかな印象になった。寝室や子供室への動線上でもあり、ライブラリーは居住空間と程よい距離感を保つ役割も果たしている。「寝室や水回りは、木のぬくもりを感じるデザインにしたかったんです」と奥さま。その要望をくみ取り、例えば洗面所の壁は木材、シンクは大理石を選び、それぞれの自然素材のテイストを関連付けている。

確かな素材選びと施工で叶う
快適で長寿命な住まい

さらにF邸では、生活感ゼロの脱住宅の実現を目指したが、その際に最も重視したのは機能性だった。光庭は大きな天窓が4枚もあるが、基準を上回る高気密高断熱施工により、夏の猛暑の中でも快適に過ごすことができる。外壁は美しい白を保てるよう屋根を大きく張り出し、目地の汚れが目立たない鎧タイル張りを採用。さらに版築仕上げで、細かいクラックが目立たぬようにした。内装材も経年劣化しにくい上質な天然素材。素材選びは奇をてらわず、機能には妥協しない──。これこそが、長く美しく住み継ぐための鍵と言える。

取材・文/間庭典子

F邸
設計施工 クウェスト 所在地 東京都渋谷区
家族構成 夫婦+子供3人 敷地面積 280.76㎡
延床面積 368.14㎡ 構法 木造SE構法一部RC造

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