2021.11.15

緑あふれる庭園の中で、3つの方形が連なる家

24時間・365日、美しい眺望を堪能できる方形の家

方形の棟を並べるというアイデアで
平屋が明るく、リズミカルに存在

庭園の中で暮らす生活を目ざしたY邸。「この敷地を見たときにひらめいたのが、方形屋根の棟が3つ連なる平屋でした」と語る星野建築事務所の星野貴行社長。方形屋根とは寄棟屋根の一種で、鳥瞰するとピラミッドのような形状の屋根。阿弥陀堂など宝形造の寺院建築にもよく見られる。Y邸でも俯瞰すると森の中にアイコニックな方形が連なるように存在し、各棟を廊下がつなぐ。
ともすれば単調になる平屋だが、独立した方形をそれぞれのつなぐ部分に玄関やテラスを配することで、奥行きと視覚的な変化をつけた。寝室、LDK、浴室のそれぞれの棟が大きな開口で囲まれているため、採光も十分にとれる。約340坪という敷地の豊かさを生かした贅沢な間取りだ。
LDKの棟の屋根は壁のような太い柱のみで支え、庭園の眺望を邪魔するノイズは全くない。「3面が大開口で、庭園全体が絵画のように切り取られ、室内にいながら庭園の中で暮らすような開放感が得られます」と星野社長。その大黒柱には石積みの装飾を施し、高い天井まで届く飾り壁のようにした。エコスマートファイヤーの暖炉を設置し、LDKの中心となるような存在感のある意匠である。外構に使われるような自然のままの石を無造作に積み上げ、あえて荒々しさを現したのも庭園の中で暮らすように感じられるデザインの技。天井は木製パネリング張りで仕上げ、無垢材に包まれるような安らぎを表現した。キッチンの奥の壁も暖炉の柱と同様、石積みに。背後に設けられたパントリーとして活用している部分を巧みに隠し、奥行きを表現している。夕刻になると石積みの壁の陰影が際立ち、ドラマチックな雰囲気を醸し出す。暮れゆく日差しの移ろいを、快適な室内で感じられるY邸。まさしく庭園とともに暮らす理想のライフスタイルを実現している。

5年後、10年後の姿を楽しみに
枝ぶりや苔の庭を日々愛でる

このY邸の庭園は、驚くことにゼロから設計したものだという。自然のままに茂ったような植栽、川の流れを模した石の配置などは昭和40年に創業した造園会社、新光園が運営するガーデンスタジオ雅楽庭がコーディネートした。数々の住宅の造園、外構リフォームなどを手掛けてきた実績により、観賞用の庭園の美しさだけでなく、暮らしに寄り添い、個々に対応したガーデンライフを提案。数々の受賞歴を誇り、植物に対する造詣も深い。Y邸の造園は5年後、10年後にさらに美しく、味わい深い眺めになるような苔庭にした。柔らかさのある苔の質感が目にも優しい。

ストレスを感じない生活動線で
ゆるやかで豊かな日々を

住み手は、数年後にリタイアを考えているご夫妻。経営者として多忙な毎日を送ってきたからこそ、引退後はゆったりと自然に囲まれた日常を送りたいと考えた。そこで平屋ならではのメリットを生かした大らかなプランニングで、将来に備えてバリアフリーな生活動線も実現している。段差はほとんどなく、各棟への行き来が車いすでも可能なプランに。浴室も露天風呂感覚で庭園を見渡せる、フラットな床面にした。
旅行先で出合ったさまざまな装飾品や縁者から贈られた各国の珍しい品々など、好きなものに囲まれて暮らしているYさん夫妻。訪れるゲストは皆、緑豊かな庭から玄関に通じる小路に感嘆するという。魅力的な庭園の中で過ごすことを、心から楽しめる住まいである。
 
取材・文/間庭典子

Y邸
設計施工 roomz 星野建築事務所 所在地 新潟県
家族構成 夫婦 敷地面積 1115.90㎡
延床面積 207.98㎡ 構法 木造SE構法

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