中庭を介して共存する“好き”に囲まれた平屋とガレージ


LDKは勾配天井の開放的な空間。天窓や連続する大きなガラス窓越しに森を眺める。床はウォールナットを採用。庭先にはガレージ棟が見える。

キッチンはダイニングと一体の空間。インテリアの大切な要素であり細部を打ち合わせながらTIMBER YARDで製作した。収納もどこに何をしまうか細かく計画している。後ろの扉を開けると水回りスペースが。

奥さまがコレクションした北欧の食器に合わせて飾り棚を設置。

食器棚は奥さまが完成前に購入したもの。正面のモビールもお気に入りだったもので、勾配天井はこのために生まれたともいえる。照明で揺れる影を楽しむ。

リビングのソファの後ろは収納スペースになっていて猫のためのグッズが入っている。タイルのネイビーブルーやテキスタイルの柄は奥さまが一つひとつ慎重に選ばれた。壁に開けられた小窓は、猫の通り道を確保するためのものでもある。

1.キッチンに立つと中庭と、さらにその先に広る森の緑も目に入ってくる。/2.タイルのアクセント壁はキッチン側にも高い位置に猫用の小窓を設けている。猫はここから梁に上がり、リビングを横断して中庭側の窓の下のキャットウォークを歩く。

3.リビングに続くホール。左奥に寝室がある。ピクチャーウインドウが視線を森に導く。右手の家具は造作。置き家具と共にインテリアを楽しむ。/4.リビングの奥に設けたオープンなワークスペース。木製のテーブルは造作。空間に大きくはみ出さないよう配慮して視線のヌケを保っている。

寝室にも中庭からの明るい光が入る。ベッドのヘッドボードはインテリアに合わせて木で造作した。ベッドカバーがウォルナットに似合う。この住まいには扉がほとんどない。猫はどこへでも自由に移動することができる。

ゆとりのある玄関ホール。ミナペルホネンの張り地を使った椅子が空間を引き立てる。リビングに続くガラスのドアはオリジナル。真鍮のノブを付けた。

ランドリースペースも明るく気持ちがよい。

正面が住宅棟。手前がガレージ棟。2つをハの字型に配置して、敷地内に誘い込むようなアプローチをつくった。手前の植栽と奥の木製の格子が街に優しい表情を加える。塀も門扉もなくオープンだが、プライバシーは守られている。

車2台とバイク7台を収容するガレージ棟。道路に対して斜めにしているので内部の様子は道路側からは見えない。集中して作業ができる。

ガレージ棟には楽器など音楽関係のスペースも確保。ご主人の至福の空間になった。ご主人の趣味の世界をすべてガレージ棟に集めたので、住宅棟は奥さまが思いのままにインテリアを楽しめる場所になっている。ここから中庭を挟んで住宅棟が見える。

バイクは手入れや部品交換などがあるため、ゆったりとしたスペースを確保した。
分棟スタイルで実現したそれぞれの理想と夢の世界
美しいネイビーブルーのタイル壁や鮮やかな彩りのテキスタイルに引き立てられ、ユニークなデザインのモビールが揺れる住宅棟、そして、2台の愛車と7台のバイクをゆったりと並べ、心置きなくメンテナンスを楽しむガレージ棟――個性的な2棟が向かい合うT邸は、夫妻のそれぞれの夢を叶えた分棟スタイルの住まいだ。
新築の計画は、TIMBER YARDのインテリアショップをよく訪ねていたTさんの奥さまが、古い家を建て替えたいと相談をもちかけたのがきっかけだった。先祖代々受け継いできた和風の庭園を有する土地は約200坪と広く、広縁の奥に和室がある昔ながらの建て方で家のなかが暗い。すっかり建て替えて、好きなものに囲まれて暮らしたいという思いがあった。具体的には3つの要望があり、1つはインテリアの好きな奥さまが好みの家具や小物を置いて楽しめる家であること。2つ目は車やバイクが趣味のご主人が部品の交換や手入れ作業もできる広いガレージがあること。そして3つめは保護猫の里親として常に数匹の猫と一緒に暮らしており、ペットにとっても快適な家にということだった。
設計を担当したTIMBER YARDの小林辰彦さんが考えたのは、敷地のゆとりを生かし、ご主人のガレージスペースを離れのように独立させた分棟式にすることだった。「初めは1棟の建物に大きなビルトインガレージを設けることも考えたのですが、道路側が広くて奥に進むと狭くなるという変形した敷地だったので、1棟にしようとすると敷地にきれいに収まらず、ファサードも整いません。そこで分棟式をご提案しました。これならインテリアの楽しみとガレージという対照的な世界が混じり合うこともなく、それぞれの理想を追求することができます」
分棟式にはさらなる利点もあった。ガレージ棟の位置を工夫することで道路から住宅棟のリビングに注ぐ視線を遮ることができるからだ。夫妻も分棟式の提案が気に入ってGOサインを出した。ご主人は独立させるならもう1つの趣味であるギターを飾って楽しむスペースもつくろうと、計画はさらに膨らんでいった。
小林さんは、住宅棟をL字型にして中庭を設け、その中庭のプライバシーを守るようにガレージ棟を配置した。2棟の巧みな配置で、道路側には植栽で街並みを引き立てるゆとりの佇まいとアプローチが生まれ、同時に外からの視線を気にせずに過ごせる中庭とリビングが誕生した。
さらに住宅棟のLDKは勾配天井にして天窓から空と森の緑を取り込み、建物の端部も窓にして視線が気持ちよく抜けるようにしている。どこにどんな家具を置くか、アクセント壁にはどんなタイルを使うか、奥さまと細かく打ち合わせ、またガレージにはどれくらいの作業スペースが必要か、楽器やスピーカーの収納はどうするか、ご主人と詰めた。猫のためには、インテリアを壊さないように、さりげなくキャットウォークや小窓を工夫。意匠としてあえて梁を設けたのもそのためだ。
夫妻と猫――それぞれが好きなものに囲まれ、心を寄せ合いながら暮らす唯一無二の楽しい住まいだ。
取材・文/酒井 新
T邸
設計施工 | TIMBER YARD | 所在地 | 千葉県千葉市 |
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家族構成 | 夫婦+猫 | 敷地面積 | 610.00㎡ |
延床面積 | 215.50㎡ | 構法 | 木造SE構法 |