玄関ホールのセラーがゲストを迎える、ワインラバーのための邸宅
リビングに面したインナーガレージはショーケースのようにライトアップできる。LDKのどこからでも常に愛車を眺められるようエンターテインメント性を高めたプランに。
自然光のなかで昼間に味わうワインも格別。LDKを拡張したようなテラスから、柔らかな光が注ぐ。多雪地域(長岡市)でありながら天井高3mも実現している。
壁や柱に邪魔されないSE構法ならではの大空間が実現しているLDK。リビングのフロアレベルをDKよりも数段下に設定したことで自然に空間をゾーニング。
パーティ会場にもなる広々とした空間のなかで、オブジェのように際立つ洗練された意匠の片持ち階段。構造の一部になる柱はミラー張りにしてデザインとして生かし、空間のアクセントに。テラスや借景のグリーンが反射し、さらに住まいを広く見せる効果を意図している。
寝室などのプライベートな部屋が並んでいる2階は床や手すりに無垢材を採用して、ぬくもりを感じさせた。
1.西側はお母さまの生活ゾーン。江戸千家を基本とした水屋もある本格的な茶室であるが、見切り枠を薄くするなど、モダンなテイストにし、家全体が調和するための工夫を各所に施した。/2.客人をもてなす本格的な茶室も。心を整えられる静謐な空間。
ルーフトップには屋上テラスを設けた。空気が澄んで晴れた夜は、ワインを片手に星空観賞をすることも。夏には長岡の花火も眺められる。
3.ダイニングから拡張したテラスには、BBQを楽しむことも想定してシンクを設置した。揺れる柳と外壁に映るその影もエクステリアの1つ。/4.ワイン会などで友人がこの家に集う機会も多いため、トイレもレストランライクな間接照明を採用。色も黒でコーディネートした。
シャープな直線のみで構成した外観の外壁は、軽やかなライトグレーで統一。東側をビルトインガレージ、西側はゲスト用のガレージスペースとした。
とっておきの時間を味わうための仕掛けが各所に
新潟県長岡市に立つS邸は、ワインラバーのための邸宅。意外な場所に意外な空間が配されたプランには訪れる人をわくわくさせる仕掛けがある。玄関の扉を開くと、目の前に飛び込んでくるのはライトアップされたワインセラー。一流レストランの設備のようなウォークインセラーを造作で依頼し、あえて玄関ホールの正面に配した。このセラーはワインのコレクターでもあるSさんが希少なワインを適切な環境で保存し、熟成させるための貯蔵庫であると同時に、ワインという「作品」が並ぶショーケースとしても機能している。そしてゲストはこのセラーを「鑑賞」しながら高揚感を抱き、さらにガラスの扉を開いてLDKへと進む。
LDKへと足を運ぶと、さらなるサプライズに出迎えられる。右手にはリビングに接したインナーガレージがあり、室内に居ながらにして愛車を眺められるのだ。まるでガレージの一部にいるような感覚でゲーム用のレーシングホイールスタンドも設置し、Eスポーツに熱中することもできる空間に仕上げた。ラグジュアリーとエンターテインメントという相反する要素が融合し、ユニークなリビングが広がっている。
ワインを楽しむためのダイニングはシームレスに中庭テラスとつながっている。ルーフトップには星空を眺め、長岡の花火を一望できる屋上テラスがあり、外の空気に触れながらワインや食事を楽しめる。一見インドア向けでありながら、自然と一体化したプランで楽しめるのもS邸の魅力でもある。また、食空間からガレージが見えることに抵抗があるという奥さまの意見を受けて、ゲーム空間でもあるリビングとキッチンダイニングの間には階段2ステップ分の段差を付けた。結果、リビングは趣味の世界に没入し、ダイニングでは外に開いて緩急を付け、ゲストと共有するハレの日も、1人で過ごす普段も心地よい邸宅となった。
洗練されたS邸の空間づくりでなによりも重視されたのが、世界最高水準の機能の実現だった。環境先進国であるドイツの木質断熱材を採用し、断熱性・蓄熱性・遮音性・メインテナンス性など日本のUA値以上の圧倒的な性能で設計している。積雪量が2mほどの多雪地域であっても、天井高3mを可能にし、耐震等級3を確保。ガレージや外部と接している大空間を快適に維持しているのは透湿モルタル塗装、木質繊維ダブル断熱だ。「インフレが進む昨今、ランニングコストなどを抑える省エネが注目されていますが、20年先、30年先の大掛かりな修繕やメンテナンスなどもふまえたライフサイクルコストを考えるべきだと思っています」と設計を担当した星野建築事務所の星野貴行さんは語る。
また、S邸は二世帯住居としての機能ももつ。ワインセラーのある玄関を境に西側はお母さま世帯。中央には浴室などの共有で使う水回りを配し、門のようなアール状の仕切り壁で親世帯と子世帯を緩やかにゾーニングしている。また、この奥にはお母さまと愛犬のための寝室、そして客人をもてなす茶室も設けられた。親世帯のもつ伝統的な和の端正さと、子世帯で感じられる重厚かつ現代的なトーンとが、まったく違和感なく、同じ住宅のなかで共存している。このさじ加減こそが、デザイン力のある建築事務所の技術とセンスの見せどころといえるだろう。このように住み手のライフスタイルに合わせてカスタムメイドし、常識にとらわれることなく、自身の嗜好を追求できるのは注文住宅だからこその醍醐味といえる。
取材・文/間庭典子
S邸
設計施工 | roomz 星野建築事務所 | 所在地 | 新潟県長岡市 |
---|---|---|---|
家族構成 | 夫婦+子供2人+母 | 敷地面積 | 327.42㎡ |
延床面積 | 266.81㎡ | 構法 | 木造SE構法 |