2024.06.24

2つの機能を分けるダブルエントランス

「ON」と「OFF」を瞬時に切り替え、未来への活力を与える住まい

盛岡市のY邸は1階を住居、2階のフロア全体を奥さまが経営するダンススクールのスタジオとした2つの機能をもつ住まい。そのためエントランスも目立つ正面にスタジオ、側面を住居部分とし、2世帯住宅によく見られるプランが採用されている。
 
 
コンセプトはON(オン)=ダンススタジオとOFF(オフ)=プライベートな住まいの切り替え。フロアを別にすることでまったく違う機能の空間を1棟に収めた。「1階がスタジオになるのだろうなと予測していましたが、提案されたのは2階がスタジオのプラン。驚きました!」と奥さま。1階を平屋的な住まいとし、2階が独立したスタジオとなった。防音・遮音性を高め、1階のW.I.C.を「柱」のようなコア部分にすることで、2階のスタジオは激しく躍動するダンサーたちも安心の強度。木造でありながら耐震等級3、面積97.52㎡を叶え、SE構法のメリットを最大限に生かした構造になっている。柱や壁は一切なく、天井高3m、3方向が開口の開放的なダンススタジオ。ダンサーが映えるシンプルなモノトーン空間とし、間接照明と集光照明にするなど照明計画も綿密に。配信用動画も撮影しやすくなり、その結果反響が大きくなったそう。指導者もレッスン生も、赤いドアを開けるとONのスイッチが入るような空間デザインになっている。全国2位に輝いたブレイクダンスチームに所属するご主人もトップレベルのパフォーマー。心理療法士として多忙な日々を送っているが、自宅内にスタジオがあるので、無理なくトレーニングを継続できる。
 
 
また、2階をスタジオにしたことでもう1つ、うれしい点があった。「夜はレッスン風景が遠くからもよく見えるので、地域の方々が『がんばってるね!』と声を掛けてくれて、とても励みになります」と奥さま。そんな生き生きとした様子が何よりのプロモーション効果を発揮し、生徒は増えて、ますますスクール全体が活気付いているそうだ。「甲子園出場が常連の野球部もあるスポーツ強豪校のダンス部を指導することになるなど、この家に住んでからは運もよい方向へと動いているような気がしますね」
 
 
1階の平屋住居空間は家事動線とリラックスしてくつろげるエリアをバランスよく配置。壁では仕切らず、大空間の中央のファミリークローゼットや寝室など複数のW.I.C.をコア部分とし、耐震強度を高めた。ファミリークローゼットを中心に1周できるスムーズな家事動線も実現している。「テレビの配線をすべてW.I.C. 内に収めるなど、無駄のない動線とホテルライクな空間づくりにもこのW.I.C.は貢献しています」とインテリアデザインを担当したフリーダムデザインの小池祥子さん。「子育て期間だからと妥協せず、住宅のほうはクールな空間にしたいとお願いしました」と奥さま。モノトーン×ゴールドのグラマラスなテイストを極め、LDKはもちろん、トイレの内装もあでやかな雰囲気に。ダイニングには存在感のあるイタリア製のペンダントライトのセレクトが、空間のアクセントとなっている。また、リビングの窓際に並ぶ耐力壁を利用し、絵本コーナーや愛犬のスペースをさりげなく隠し、子供たちが思いっきり遊べる畳コーナーを設けるなど、“洗練と心地よさ”という、一見、両立が難しいように思える2つの要素も自然に共存させた。
 
 
ダンサーとしてのONと家族と過ごすOFFの時間──。そのスイッチを瞬時に切り替えられる空間を手に入れたことで、Yさん一家の暮らしの可能性は、さらに未来へ向けて広がっていく。
 
 
取材・文/間庭典子

Y邸
設計施工 フリーダムデザイン 所在地 岩手県盛岡市
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 226.98㎡
延床面積 245.52㎡ 構法 木造SE構法

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