2022.10.03

端正な直線と有機的な曲線、木材と石材の対比が調和するLDK

高窓や天窓から光が差し込む伸びやかなLDK

住宅の概念を超越した
アーティスティックな空間

JR大分駅から徒歩圏内、幹線道路から一本入った住宅地に立つキューブ型のT邸は、まるで小さな美術館か洒落たカフェのよう。ひと際目立つ外観だが、外からは中の様子がうかがえない静けさが。そしてガレージの横の引き戸を開くと、RC造のシャープなエントランスホールが突然、目の前に広がる。あえて段差をなくした玄関、そして中央のコンクリート製の階段のステップは宙に浮き、なんともアーティスティックだ。
2階へ進むと広がるのは、ロフトスタイルの大空間。ダイナミックな勾配天井が上部でつながり、ひとつの空間を収納家具だけで区切っている。真っ白な壁と無垢材、柔らかい陽光に包まれた空間は、SE構法によるもの。1階とはまったく雰囲気が異なる空間だが、石材と木材のバランスが絶妙で、心地よい住まいに仕上がった。硬質な石造りの1階と、あたたかみのある2階とをつなぐ吹き抜けまわりの無垢材がブリッジのような役目を果たしているからだ。

採光と風通しを約束する
パッシブな高窓の機能性

南側の上部には高窓を連ね、窓が開く角度を調節できるシステムを導入した。「自然のエネルギーを最大限に生かす室内環境への挑戦です」と、設計したFDMの高倉 潤さんは語る。
ハイサイドライトはダイニングやリビング、寝室にもわたり、リモコンでそれぞれの開閉を微妙にコントロールできる。季節や時刻、また天候によって調整することで、より精度の高いパッシブデザインが可能になった。T邸は、そのシステムのプロトタイプでもある。
また、T邸の立地は崖地であり、崖側には既存の平屋がある。前面道路の幅も4mと狭い。「それゆえ法規制が厳しいので、1階をRC造とし、2階をSE構法の2層構成にすることで、敷地を最大限に活用できました」と高倉さん。角度のある高窓は、太陽光や熱を最大限に取り入れる効果はもちろん、近隣からの視線を気にせず過ごすための工夫でもある。境界線となっている石垣の風合いを生かして、テラスは石を敷いてナチュラルな庭とした。

大分の風土を求めUターン
住環境づくりで地域に貢献

大学院で集落の研究や集合住宅論、環境建築を学んだ高倉さんが地元の大分にUターンしたのは2017年。子育てをするなら大分の風土、と思い立ち、2021年には先代の跡を継ぎ、代表取締役社長に就任した。住宅やマンションの設計施工、リフォームや造園事業、不動産事業など多岐にわたるFDMの事業のなかで、ユニークなのは別荘やホテルの開発、移住や本社移転などをサポートするリロケーションサービス。「魅力ある大分県のポテンシャルを生かす付加価値創造の事業部です」と高倉さん。さらに、サステナブルで自然に寄り添う住環境づくりを地域とともに盛り上げたいとも語る。
実は自邸であるこのT邸は、敷地内のほぼすべてが準防火地域にあたる。しかし木質断熱材を採用することにより、外装は地元の杉材による天然木仕上げが可能になった。窓まわりも同様に準防火対応の木製サッシとした。さらに床材は大分県で採掘された日田石を採用。大分県の木材と石材に包まれる理想の住まいを見事に体現している。

取材・文/間庭典子

T邸
設計施工 FDM 所在地 大分県大分市
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 179.18㎡
延床面積 198.09㎡ 構法 木造SE構法+RC造

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