シンボルツリーを望むミニマルな回廊の家
家の中心に4m×4.5mの中庭がある平屋風の間取り。2階は子供室とし、今は1階だけで生活している。カルテルの「マスターズチェア」がポイントに。
教室を開くこともできそうなピアノスペース。グランドピアノの質感に合わせて、光沢のある黒のカリモク家具のソファを選択した。奥に見えるミニチュアのような椅子はカリモク家具のキッズ用。
キッチン全体をカバーするように高めのカウンターを設けたため、リビング側からは手元やキャビネットに並んでいる家電が見えない仕掛けに。
無駄な要素を排除したミニマルなLDKには、シンプルでコンパクトなソファをL字で配置。テレビを見たり、中庭を眺めるなどくつろげる。
1.中庭に面した回廊と平行にあるバックヤード。コンパクトな家事スペース、パントリー、クローゼットがあり、浴室やトイレにも裏から行ける動線に。/2.リビングから眺めたとき、キッチンカウンターに隠れる低めのキャビネット。炊飯器やオーブントースター、電子レンジなどの家電は白で統一し、デザイン性の優れたタイプを厳選。
調味料の容器も吟味して、見せる収納を意識。
将来、子供室として使用する予定の2階。窓からは中庭テラスが見下ろせる。
将来の備えも万全! 内に開き外に閉じた空間で快適に暮らす
平屋での生活をイメージした
シンプルを極めた空間
埼玉県蕨市にお住まいのSさんは一級建築士。現在は街づくりに携わる仕事に就いているが、元は設計事務所で住宅の設計をしていた。「打ち合わせの初日に、自作の模型まで持参していただいたので、今回はSさんが引いた図面になぞらえ、具体化するという作業でしたね」と設計施工を手掛けたR.クラフトの武田 力社長。最初からシンボルツリーを囲む家というコンセプトは決まっていたため、打ち合わせはとてもスピーディーだったという。
「今まで自分が担当した住宅は、同じ木造でも在来工法だったので、SE構法の可能性には驚きました。想定していた柱や壁は、ほとんど必要がなかったですね」とSさんは振り返る。不可能を可能にするSE構法の間取りの自由度に期待が高まった。デザインは努めて無駄を省いてミニマルに。シンプルに、丁寧に、暮らす住まいを目指した。
LDKやピアノ室、寝室などの居住空間が中庭を囲んでいる。中庭テラスの面積は約18㎡とかなり広く、採光や眺めるための庭というより、感覚としては、室内の一部として拡張するアウトドアリビングのような役割だ。フィリップ・スタルクがデザインした「マスターズチェア」を置き、外に出て光や風を感じながら、ゆったりと過ごすことができる場にした。
「平屋が理想でしたが、これからの展開も考え、いずれ子供部屋として使用できるスペースを2階に配しました。2人の子供が幼いうちは1階だけで生活できる動線になっています」とSさん。
すっきりとした暮らしに導く
異なる役目の2つの廊下
シンボルツリーを囲む家というコンセプトに加え、この家を特徴づけているのが、玄関から中庭越しに見える向かいの廊下。「実は並列で2本の動線があるのです。表の廊下は通路として、平行した奥の動線はバックヤードとして機能します」と武田社長。キッチンから続くデスク付きの家事スペース、パントリー、クローゼット、洗面所、ランドリー、浴室がひとつの裏のラインでつながり、日常生活に必要な機能が外からは見えないようにまとめられている。そのおかげで、中庭に面した廊下はギャラリーのような研ぎ澄まされた空間に。S邸のシャープな美しさを際立たせている。
そんなミニマルな空間で存在感を放つのがグランドピアノ。LDKとは中庭を挟んでいるので、程よい距離感が保たれ、演奏にも集中できる。サッシを開け放てば、中庭を客席としてミニコンサートも開けそうな間取りだ。
2階を造ることで生まれた
明るさのうれしい誤算
南側にあるLDKは家族が集まる空間。部屋の南の開口も大きくとるかどうか迷ったが、駐車場に面しているため、外部の視線が気にならない高い位置に窓を設けた。「中庭からの採光だけでは不十分かもしれないと心配しましたが、子供のためのスペースとして建てた北側2階の棟の白い壁がレフ板のように光を反射し、室内を照らしてくれたのです」とSさん。これは予期しなかったうれしい誤算だったそう。
キッチンのこまごまとしたものはリビングやダイニングからは見えないような設計に。逆に調理器具やストックした食材は見せる収納を意識し、デザイン性が高く、空間になじむものを選んだ。
機能的な動線や潔い空間の使い方。そんな計算された住まいが、上質な日常をもたらしている。
取材・文/間庭典子
S邸
設計施工 | R.クラフト | 所在地 | 埼玉県蕨市 |
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家族構成 | 夫婦+子供2人 | 敷地面積 | 287.20㎡ |
延床面積 | 135.80㎡ | 構法 | 木造SE構法 |