2022.09.20

自然の力を賢く生かすコンパクトハウス

独創的なルーバーにより、光の調節が自在なスマートハウス

3階建ての狭小住宅を
快適に保つパッシブデザイン

「太陽熱や風が入りにくい都会の狭小間口の敷地で、いかに冬は暖かく、夏に涼しい家を実現するか。そして耐震性を確保したうえで、洗練されたデザイン性も妥協しませんでした」とPASSIVE DESIGN COME HOMEの木村真二社長は語る。名古屋駅から車で10分以内というアクセスに恵まれたM邸は間口が5.4mの3階建て。ともすれば日差しが入らず、いつも暗い室内になりかねない。かといってプライバシーを考えると外部に対してオープンにすることも難しい都市の住宅である。
3階建ての木造狭小住宅に吹き抜けを設けることは在来工法では難しいが、1棟1棟構造計算を行うSE構法では耐力壁に頼らずとも、吹き抜けにすることが可能。そこで南側に大開口とコンパクトな吹き抜けをつくり、まずは採光を確保した。2階、3階のバルコニーに面した大開口は格子状のルーバーで目隠しを施し、プライバシーを守った。この独創的なルーバーは木村社長が考案したオリジナル。パーツ1つ1つが手動で角度を変えられ、季節や天候に合わせて室内に入る光や熱の量が調節できる。「室内を快適な環境に保つためには断熱性などの性能も大切ですが、それよりも大事なのが日照シミュレーションです。隣家なども考慮し、LDKなど滞在時間が多い場所をいかに冬暖かくするか。一方で断熱性能が高いと夏、オーバーヒートするのでしっかり遮蔽する必要があります」と木村社長。自然のエネルギーを生かしたパッシブデザインの技術を駆使し、状況に合わせて、またその時の気分によって室温や明るさをコントロールできるスマートハウスが完成した。

パッシブデザインをより生かす
素材選びと設計の妙

四季を通して快適な環境に整えるテクニックは各所に配されている。例えばリビングのテレビ側に設置した蓄熱壁。「LDKの室温を安定させるコンクリートをモルタル塗りした蓄熱壁は、暑いときは熱を吸収し、寒いときは熱を拡散するエネルギー電池のような機能を果たします」と木村社長。階段との仕切りとなる壁は、光を通すガラス素材を選んだ。バルコニーの奥行きを広くしたいという要望にはフロアの高さを一段下げることで対応。「奥行きが広いと、窓上部に太陽光が当たらないのですが、少し低く設定することで奥まで光が届きます」と木村社長は解説。1階のフロアは地上から数段上がった位置に設定することで、バルコニーのトップライトから奥の寝室まで太陽のエネルギーが届くよう計算した。近隣に接した東と西は高窓を設け、採光や通気性を高めた。

妥協しないデザインと
微調整で快適な空間づくりを

Mさんの要望は黒やグレーを基調としたクールなデザイン。ダイニングのライトもインダストリアル系の硬質なデザインで選んだが、LDK全体は柔らかな間接照明にして全体のバランスをとっている。「2階と3階をつなぐ黒のスチール階段も外部で使用するようなラフなデザインです。1階と2階をつなぐ階段は、無垢材でナチュラルな仕上げにしました」と木村社長。コロナ禍で対面の機会は減ったが、遠隔での面談を重ね、交流する頻度は増えた。LINEで画像を共有し、デザインに関しても意思の疎通はスムーズになったという。事前にSNSなどで情報を発信することで、構造のメカニズムに関する住み手の理解も深まっている。そんな交流の積み重ねにより、機能もデザインも理想どおりの住まいづくりが可能になった。

取材・文/間庭典子

M邸
設計施工 PASSIVE DESIGN COME HOME 所在地 愛知県名古屋市
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 99.21㎡
延床面積 116.14㎡ 構法 木造SE構法

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