舞台のようなキッチンで食と音楽が共演する家
料理が趣味だという住み手のフレンチ料理の腕前はプロ級。ゲストは手際よく調理をしたり、盛り付ける様子もダイニングテーブル側からライブ感覚で楽しめる。
大開口から豊かに自然光が入り明るいLDK。夜は間接照明の効果で雰囲気のある空間に変化する。キッチンは機能を重視し、壁面収納で至極シンプルに。
天井高約6mを確保したリビングは、伸び伸びとした吹き抜けの空間。ブラックウォルナットの床材に黒やグレーを合わせて、高級感のある空間に仕上げた。
1.プライベートダイニングでは料理のコンセプトに合わせてテーブルセッティングにもアイデアを絞る。トム・ディクソンの照明が食卓をあでやかに演出。/2.趣味の域を超えた腕前のIさんがもてなすコース仕立てのフレンチは「鴨ロースのソテーマディラワインソース」など、1皿1皿が華やか。
3.食卓のフラワーアレンジを考えるのもゲストを迎える特別な日のための大事なプロセス。/4.料理そのものが映えるよう、キッチンは色みもデザインも抑えて、極力シンプルな空間に。
5.ライブステージのようなキッチンでは、最後の仕上げもパフォーマンスの一部。ゲストが盛り上がる瞬間だ。/6.美食家で凝り性のIさんは業務用の調理機器をそろえ、設備もプロ仕様のものを選んだ。
器と料理のコーディネートもセンスの見せどころ。
吹き抜けに接している2階のキャットウォークから見下ろしたLDK。この大開口からの光が室内全体に届き、日中は照明の必要がないほど明るい。
玄関ホールの面積をできるだけ広く取り、演奏に集中できる音楽室としても活用。音楽室エリアと玄関とはシューズクローゼットと仕切り壁を設け、さりげなく目隠しを施した。一方でLDKとの境は開閉できるガラスドアにすることで広がりを感じられ、1つの空間としても使えるようにした。
玄関正面のシンボルツリーを配したピクチャーウィンドウ越しに、季節の移り変わりを感じられる。
予備室とひと続きにして、遊べる広々とした子供室。将来は壁で仕切って完全に2部屋に分けられるよう、同じ天窓や扉を並列に配置。
7.ドレッサーを兼ねた奥行きのある洗面スペース。慌ただしい朝にストレスにならないよう、横長のミラーの前に並んで身支度ができる。/8.寝室の奥の部分は書斎。黒でまとめたデスクまわりに調和するダークグレーの壁紙を1面だけに張り、落ち着けるカラーリングにした。外部からの視線が気にならない天窓からの光で、日中は十分に明るい。
細長い敷地の前面をガレージとし、住居はセットバックさせて道路と距離をとっている。
プライベートダイニングに集い、音楽に酔いしれる完璧な週末
I邸は食と音楽を楽しむための住まい。シェフ顔負けの腕前とセンスをもつIさんは、フランス料理のフルコースを自ら調理し、洗練されたテーブルコーディネートでゲストをもてなす。もはや厨房と呼ぶべきプロ仕様の調理器具をそろえたキッチンで、独学で習得した料理を究めることを趣味としている。奥さまはセミプロレベルの音楽家。玄関部分を拡張する形でプランニングされた練習場兼音楽ホールでは、グランドピアノやヴィオラを演奏し、ゲストとセッションを楽しむこともあるそう。玄関ホールとLDKが自然につながる1階は伸びやかで、よちよち歩きを始めたばかりの息子さんも上質な食と音楽に囲まれ、健やかに育っている。ベンチにもなる階段下のコーナーには、ベビーサイズのグランドピアノを設置。自然に音楽と触れ合える環境が整い、愛鳥も音楽に合わせてさえずることも。そんな心豊かな暮らしが日常だ。
家づくりは敷地が南北に長いため、間取りの自由度が限られるというチャレンジングな条件付きのスタートだった。さらに時間によっては隣接する東西の住居が光を遮り、日陰になってしまう。しかし敷地の前方、南側からは1日を通して日当たりがよいことが日照シミュレーションによって実証できた。そこで外壁後退ラインを守りつつ、北に住居、南を駐車スペースとし、可能な限り直射日光を得られる配置計画に。「両隣の家の影を避けつつ、南面に集熱窓を取るというプランです。南側ほぼ全面を開口部とし、吹き抜けから住まい全体に自然光が渡ることを目指しました」とタイコーアーキテクト設計担当の中瀬由子さん。下がり天井に採用したウォルナット素材など、シックな色みや素材感を組み合わせ、ラグジュアリーに仕上げた。
「気になる家具や照明があれば実物をショールームまで足を運んで選び、それに合わせた空間のデザインをお願いしました。ダイニングのペンダントライトとして選んだトム・ディクソンのメルトもその1つです。細かい部分までこだわりたくて、中瀬さんやインテリアコーディネーターの中野さんには親身に相談に乗っていただきました」と奥さま。
「家づくりを考え始めた頃、YouTubeなどで情報収集し、『性能』が大事ということを学びました。当時はそれだけに固執して、超高性能住宅を手掛ける工務店を検討していましたが、デザインに納得できず。そこで高性能かつおしゃれな家を建てられるバランス感覚に優れた会社をリサーチするなかで、『重量木骨の家』のサイトに出合いました」とIさんは振り返る。動画で本格的なフレンチ料理の技を身につけたというIさん。家づくりに対しても持ち前のその探求心でSE構法にも詳しくなり、自分たちのテイストに近いと感じたタイコーアーキテクトを訪問。さらなる情報を集めた。
「『スケッチアップ』でつくられた3Dモデルのおかげで具体的なイメージがつかめ、自分たちの要望を見直すことができました。明るく開放的な玄関ホールとその先につながるLDKの空間が実現でき、とても満足しています」とIさんは語る。「2人で真剣に家や暮らし方について語り合い、考えるのは大変でしたが、とても充実していました。あのときに一生懸命に悩んだからこそ、今の快適な暮らしがあると思います」と奥さま。
日中は常に明るく、夜は間接照明でムードが増す食卓はゲストも感動する究極のプライベートダイニング。理想の空間を得たことで毎週末が“パーフェクトウィークエンド”となり、家で過ごす休日がさらに楽しみになった。
取材・文/間庭典子
I邸
設計施工 | タイコーアーキテクト | 所在地 | 大阪府堺市 |
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家族構成 | 夫婦+子供1人 | 敷地面積 | 220.45㎡ |
延床面積 | 142.77㎡ | 構法 | 木造SE構法 |