L字型の二世帯住宅を守る石壁とガレージ
子世帯のガレージからは住居エリアへと通じる階段と庭を見通せる。内部でメンテナンスの際も開口からの採光によって明るい。
S邸の外観。外からは奥の家屋がほとんど見えない。文化シャッターのフラットピットを採用。幅が6mまであり、つなぎ目のない美しい外観が実現している。電動のアルミ製でシャンパンベージュのステンカラーをセレクトした。
各世帯がそれぞれ3台ずつ駐車可能なインナーガレージをもつ。ガレージ内から玄関やW.I.C.への動線も確保した。
子世帯の玄関ホールから見た吹き抜けの階段部分。奥の庭に浮遊しているように錯覚するような蹴込みのないデザインで、ガレージからも庭が眺められる。
子世帯のLDKはSE構法ならではの間仕切りも柱もない大空間。シャープなインテリアをチークの無垢材が程よく和らげている。目の前の庭に向く大開口。
リビングにはイタリアのラグジュアリー家具ブランド、ミノッティのソファが置かれている。テレビのない生活を選び、壁一面を玄関アプローチと同じ素材で統一。
庭に面した親世帯のLDKのインテリアはフローリングのチーク無垢材など、ぬくもりのある天然素材をポイントにコーディネートされている。
子世帯のダイニングはシャープにまとめたが、スタイルが違っても同色や同素材をベースにすることで両フロアの雰囲気は自然になじむ。
1.黒の格子や正方形の畳など、和の要素をモダンに取り入れた親世帯の玄関。右はガレージへとつながる扉。/2.LDKや各寝室、浴室などをつなぐ廊下はギャラリーとして活用。同間隔に配した天窓から陽光が注ぎ、廊下そのものがアートピースのように美しい空間。
服を選ぶのが楽しくなるブティックのように端正な子世帯のW.I.C.。車はもちろん、服や靴、食器などの衣食住に関わるアイテムも美しくディスプレイして愛でるのが両世帯に共通している美意識。
住まいに奥行きをもたらし、家族を守る役割も果たす存在感のあるガレージ
重厚な岩の壁が印象的な外観は、美しい砦のような趣で存在感を放っている。S邸は、新潟県に立つ4世代の一家が暮らす完全独立型の二世帯住宅。所有する6台の車を駐車できるインナーガレージが邸宅の前面にあり、さらにその前には4台以上が停められるゲスト用のパーキングスペースが設けられている。二つのインナーガレージの中央は、車寄せとなる全世帯共用の玄関アプローチ。夜にはライトアップされ、ガレージ内の愛車をさらにドラマチックに演出する。
「床面積が500㎡を超える、もはや集合住宅の域の大邸宅です。けれど単なる大きな箱にはしたくはありませんでした」とroomz星野建築事務所社長の星野貴行さんは語る。そこでL字型の邸宅が庭園を囲み、両世帯のLDKや客間などの主たる部屋から共通の庭を見渡せるプランを提案。しかし動線は両世帯で交錯することのないよう、二世帯のエリアを完全分離。エントランスは90度向き合うかたちにした。
インテリアは親世帯、子世帯共にグレーを基調としたラグジュアリーなモダンスタイル。さらに親族の集まる機会も多い客間やお祖母さまの住居エリアがある親世帯には和のテイストも取り入れて、温かみのある空間に仕上げた。平屋となる廊下や玄関ホールにはトップライトを配し、柔らかい自然光が差し込むような配慮もされている。2階のLDKは165㎡以上の大空間。壁一面を石張りにし、外部と統一した。リビング部分の約10mの大開口からは庭が望める。実はこの開口部の上下の窓枠を見せない仕上げは、Sさんが工事途中に視察した際にひらめいたのだそう。「今乗っているマセラティのグラントゥーリズモは、フロントガラスは枠のないシャープなデザインです。でも運転するとそのまま景色が迫ってくるようで、自宅でもそんな感覚を味わえたら楽しいな、という発想でした」とSさんは笑う。
また1階のエントランスの吹き抜けの階段は、蹴込みのないデザインにして奥にある庭の眺めを邪魔しないようにした。この景色はガレージの中からも見ることができるので、帰宅時やメンテナンスをしている間も目を楽しませてくれる。ガレージからこの庭へ直接つながる動線も設けられた。
また、S邸のガレージは住居エリアの手前に位置しているため公道からの住まい内部へは距離がとられ、外部の視線や気配を遮断できる。外部からの騒音や内部の生活音を遮断し、住まい内部を静かな環境に整える役割も果たしている。外から見ると水平な直線を描く外側だけが見え、ガレージは強固な城壁のようだ。さらに新潟県のなかでも降雪量の多い地域では、インナーガレージによって車が守られる。「以前住んでいた家では、冬は車庫から車を出すだけでも雪を片付けるために数時間も要していました。でも今ではガレージ前の駐車スペースに融雪システムを採用したので、その苦労から解放されました」とSさん。このように実際に住んでみて気付いたのは計算し尽くされた機能性。断熱性や気密性はもちろん、将来、バリアフリーにも対応できる最小限の段差で、家事動線にも無駄がない。「今の家のほうがそれまで暮らしていたマンションより、歩く距離が短いんですよ。格段に広くなったのに」と奥さま。
高齢者からまだ幼いお子さんまで──。みんなが笑顔になれる家は、家族全員の心と健康を守ってくれる存在となっている。
取材・文/間庭典子
S邸
設計施工 | roomz 星野建築事務所 | 所在地 | 新潟県 |
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家族構成 | 祖母+両親+夫婦+子供2人+愛犬 | 敷地面積 | 711.86㎡ |
延床面積 | 535.13㎡ | 構法 | 木造SE構法(一部鉄骨造、RC造) |