ガレージがあるからできたスキップフロアの楽しい家


シンプルな箱形の外観。フレーミングされた連続窓がアクセントになっている。ガレージの扉は無垢の木を使った重厚なもの。窓の間の木とともに建物にやさしい表情をつくる。

英国製の名車アレックス・モールトンは、ご主人の宝物。

ガレージの上に広がる中2階部分。家族のライブラリーコーナーが設けられ、大きなテーブルで思い思いに過ごす。後ろの本棚側には子供室が並んでいる。

1.家族それぞれの自転車を収納するスペースも確保している。/2.ガレージ奥に設けられた室内に入る階段。玄関ホールへと続く。車を使うことが多いご主人には日常的に使う動線であり、壁を木で仕上げてぬくもりのある表情をつくった。

1階のLDKと中2階のライブラリー、そして2階に設けられたフリースペースは縦につながる一体空間。住まい内部のどのフロアにもテラスから明るい光が入る。

屋外には広いテラスが続くLDK。高い壁で外からの視線を遮断しているので、カーテンなどは不要となった。一部を吹き抜けにして、部屋の奥まで光を導いた。

テラスはゆったりとした広さを確保。プライバシーがしっかり守られている。テーブルとチェアはデンマークの家具ブランド、メーター。再生材で製作された。

2階奥の寝室はデスクと棚を空間に合わせて造作。奥のラウンジチェアはデンマーク製、スペースコペンハーゲンデザイン。

3.2階の水回り。奥はランドリースペースでデッキに続く。洗濯関連の家事はここで完結する。/4.玄関に続くパントリー兼家事室。キッチンに続く裏動線でもある。

角地に立つS邸。玄関は床面を高くしているため階段で上がるプラン。
吹き抜けと階段で縦につながる3層の空間が6人家族を一つに
外に向かって軽く閉じ、内側にテラスを設けてプライバシーを確保したS邸。一歩室内に足を踏み入れると、シンプルな箱形の佇まいからは想像もできない明るくのびのびとした空間が広がる。最大の魅力は3つのフロアがスキップしながらつながる空間構成だ。一番下に広いテラスと連続したLDK、中2階に家族のライブラリーとその後ろに並ぶ子供室、そして2階にはフリースペースと寝室が配置されている。ドアがあるのは子供室と寝室だけで、しかもそれらは建物の外周側に並ぶ。そのため、“箱”の中央寄りは高さの異なる3層が吹き抜けと階段で縦につながった一つの空間になっている。リビング、ライブラリー、フリースペースという家族の共有空間が一体となっているので、誰がどこにいても姿が見え、声が聞こえる。「子供たちが個室にこもってしまう家にならないように」という奥さまの希望が叶った。
この魅力的な空間構成を導くきっかけになったのは、Sさん夫妻が建築にあたって希望した二つのことだった。一つは外国製の大型SUV2台と家族それぞれの自転車をゆったりと格納するビルトインガレージが欲しいということ、もう一つが建物の1階の床の高さを上げたいということだった。その理由をご主人は次のように語ってくださった。
「ここは実家に近いので私は土地の事情をよく知っているのですが、平坦で暮らしやすい反面、海抜0.9mでしかも二つの大きな河川に挟まれています。浸水被害は十分警戒しなければなりません。そのため1階の床を地上1.6mまで上げたいと考えていました」。
もちろんガレージは道路の高さに設けることになる。そのためS邸の1階には、2種類の高さの空間が生まれることになった。主要な床は道路から1.6m高いところに設けられるが、その3分の1ほどを占めるビルトインガレージは道路レベルにある。つまり建物の一部にガレージが貫入し、ガレージの屋根の高さがリビングの床より上に出ることになるのだ。
この1階の床の変則的な組み合わせを巧みに設計に取り入れ、魅力あふれる3層空間を提案したのが、設計・施工にあたったTIMBER YARDだった。
土地の入手後、建築の依頼先を探していたSさん。さまざまな住宅構法を検討するなかでSE構法に出合った。木造でありながら耐震性の高い大空間を確保することができて、しかも一邸ごとの綿密な構造計算によってその性能が担保されると知って、ぜひこの構法で建てたいと考えたという。そして計画地のエリアの近くでこの構法を採用している工務店がないかと探し、TIMBER YARDの名前を知った。
「SE構法は無柱の大空間も床の高さの変化も実現可能です」とTIMBER YARDの設計担当者は言う。「スキップフロアの連続した空間は、仲のよいご家族にぴったりだと思います。ガレージから玄関に直通する階段や玄関からキッチンに抜ける裏動線も工夫して、毎日の暮らしやすさにも配慮しました」。木の家ならではのナチュラルでさわやかな空間に合うインテリアもTIMBER YARDのインテリアコーディネーターが提案。トータルプランニングを進め、スタイリッシュな空間も実現した。そして何よりもこのS邸は、ガレージがその本来の機能を高めるだけでなく、住まいそのものの構成にも影響を与え魅力を高めている。
取材・文/酒井 新
S邸
設計施工 | TIMBER YARD | 所在地 | 東京都江戸川区 |
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家族構成 | 夫婦+子供4人 | 敷地面積 | 186.49㎡ |
延床面積 | 227.71㎡ | 構法 | 木造SE構法 |