2023.11.13

個性的な敷地を逆手に取った都市の邸宅

RC造の地下車庫が敷地の制約を強みに転換。階上には光あふれる大空間を実現

 
家族4人で暮らすには少し手狭になった家を出て、新たに土地を求め新築することにしたTさん夫妻。この機会にご主人にはどうしても実現したい夢があった。愛車をゆったりと収容する大型のビルトインガレージだ。希望のエリアに土地を見つけ、新築するならぜひ依頼をしたいと思っていたクウェストに声を掛けた。この事務所が気に入ったのはホームページで見た家づくりで大事にする10カ条(1.自然との一体感がある家、2.自然の素材を生かした家、3.空間が意識できる家、4.危険が少ない家、5.夏の暑さと雨に強い家、6.収納力のある家、7.照明効果が満喫できる家、8.シンプルで控えめな外観の家、9.経年変化が少ない家、10.ホテルのような家)のすべてが、まさに自分が望んでいるものとぴったりと一致していたからだった。
 
 
しかし実際にこの敷地を見たクウェストの社長であり設計者の可児義貴さんは、別の土地を探したほうがよいと進言した。傾斜地で擁壁に支えられているが、数年前に敷地全体が崩れた経緯があり、古い擁壁を造り直すだけで莫大な費用がかかることが想定されたからだ。「それでもとても気に入った土地だったので、擁壁に手を着けず建築の工夫でなんとかできませんかとお願いしました」とTさん。改めてクウェストが知恵を絞り、提案したのが現在のプランだった。
 
 
「道路レベルを地下1階として分厚いコンクリートでとても堅牢な無柱のガレージ空間をつくりました。これで擁壁に手を加えなくても敷地が安定します」と可児さん。さらに「もし建物全部がRC造であれば重量があり過ぎて法令上、既存の擁壁もつくり直さなければなりません。上に載るのが木造のSE構法の建物なので全体の重量を抑えることができました。RC部分の壁の厚みや上に載る建物の重量など、緻密な計算を繰り返して、これなら既存の擁壁には触らずに、しかも崖崩れなどを一切心配することなく暮らしていける住まいができると結論を出すことができました」と振り返った。
 
 
ガレージ上の1階にはゲストの心を捉える優雅な玄関ホールと個室を確保。2階にはバルコニーが続く広々としたLDKを設けた。室内からフラットに続くバルコニーは、奥行きが約3.7mもあり外部からの視線を遮る高い壁も設けているので室内空間と一体化し、さまざまな使い方ができる。室内のバルコニー寄りには、ソファスペースではなくキッチンやダイニングを配置。食事をしたりお茶を飲んだり、時には本を読んだり、明るい窓辺で内外の区別なく楽しむことができる。LDKを引き立てる明るいベージュを基調にした上品で美しいインテリアは、奥さまが主導してつくり上げたものだ。「擁壁の問題をうまく解決してくれただけでなく、すっきりとして広いLDKや私たちのイメージ通りにデザインして造作してくれたキッチンやリビングの収納家具など、非常に気に入っています。ダイニングの丸テーブルもオリジナルなんです。またLDKには広い収納スペースが隠されているので、いつもすっきりと片付きます。この点もすごくよかった」と奥さま。
T邸は非常に困難な敷地条件をプロの英知でクリアした結果、“10のコンセプト”もすべて盛り込まれている。クウェストとTさん夫妻の記念すべき共同作品になった。

取材・文/間庭典子

T邸
設計施工 クウェスト 所在地 東京都目黒区
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 194.12㎡
延床面積 219.89㎡ 構法 木造SE構法一部RC造

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