素材の共演が唯一無二の魅力を放つ都心の邸宅
アンティーク家具や絨毯が各所に配されたS邸。バルコニーへつながる窓辺にはベンチを置いてコージーコーナーに。住まいの内と外には、植物を多数配置。
テーブルと椅子は建て主が以前から愛用していたもの。これらを置くことは最初から決まっていた。ガラスのペンダントは一つひとつ建て主が選び、位置も検討。
吹き抜けの階段ホールと一体にすることでさらに広がりをもたせたリビング。グレートーンでまとめたインテリアが手織りの絨毯を引き立てる。テレビボードの扉など随所にブラックミラーを使って造作し、モダンな雰囲気をつくった。
ダイニングとオープンにつながるキッチン。個性的な面材がアクセントに。アーチ型の入り口の奥にはパントリーが続く。
1.さりげなく置かれたアンティーク家具が印象的なコーナー。大空間に彩りと個性をプラス。/2.ガス燃焼式の暖炉を組み込んだ壁面は福島県産の白河石を仕上げを変えて組み合わせて空間のアクセントにした。
3.トップライトで光を取った吹き抜けの階段ホール。壁のアクセントにブラックミラーを使った。将来中央部分はエレベーターを設置することも考えている。/4.1階の個室をつなぐ廊下の壁面には手織りの絨毯を掛けてインテリアとして楽しんでいる。床はウォルナット。スチールの黒が合う。
5.傾斜が緩やかで踏み板の幅の広い階段。階段を単なる機能に終わらせず空間のデザイン要素として大切にするのがクウェストのスタイル。ガラスブロック越しの採光は、プライバシーを守りつつ居住性を叶える都心に立つ家ならではの配慮。/6.階段の手すりは握りやすく見た目にも優しい丸みのある形状に加工した。
ガラスブロック越しに明るい光が注ぐ地階の玄関ホール。壁はトラバーチンやセメント板で独特の質感を表現。アンティークの家具を引き立てる。
7.玄関。Sさん夫妻の世界がここから始まる。壁の照明はフランク・ロイド・ライトのタリアセン。/8.法規上は地下となるガレージや玄関のあるフロアはRC造として上に木造の建物を載せた。2階のバルコニーを大きく張り出し軒天井には木を張って外観の表情を和らげた。
9.1階のプライベートゾーンにある洗面室。カウンターを造作した。/10.ポーチに入るスチールの門扉はオリジナルのデザイン。引き手には希少な黒柿を使っている。
大胆にそして優雅に。上質な自然素材で構成された大人の空間
手織りの絨毯やアンティークの家具など、個性的で存在感のあるものが集められながら、すべてが見事に調和して上品で優雅な世界をつくるS邸。表情豊かな“役者”たちを1つの世界にまとめ上げたのは、天然素材を巧みに使って整えられた空間の力だった。仮にシンプルな白い壁の空間であったら、家具や調度品の強い個性が、ただぶつかり合うだけだったに違いない。2軒目の家づくりとなったSさんご夫妻。新たに計画したのは、子育てのための家ではなく、ご夫妻のこれからの時間のために、深いやすらぎのある住まいにすることだった。
今度の家は、耐震性が高く、天井の高い開放的な空間が得られるSE構法で建てると決めていたご夫妻は、SE構法を得意とするビルダーのなかから依頼先を選ぶことにした。都内を施工エリアとするいくつかの会社を比較して、白羽の矢を立てたのがクウェストだった。ホームページの作品集で見つけた建物のなかに(それは住宅ではなくオフィスビルだったが)モダンなデザインでありながら土壁を使って和のテイストを取り入れた施工例を見付け、とても気に入ったからだった。また、自然素材を生かした人に優しい空間づくりをする、というクウェストの設計のポリシーにも惹かれるものがあった。「設計はなかなか難しかった」とクウェストの建築家、可児義貴さんは振り返る。「敷地は傾斜地で左右は擁壁に囲まれていました。擁壁が耐えられる重量の建物でなければなりませんから、総RC造のような重量のあるものは建てられません。そこで基礎を兼ねたコンクリートの地下車庫の上に、2層の木造の建物を載せることにしました。木造といってもSE構法ですから堅牢で、ご要望だった大空間も可能です」
可児さんは1階にプライベート空間を集め、2階を南北にそれぞれにバルコニーをもつ約110㎡のLDKとした。南のバルコニーは少し高めに壁を立てて外からの視線を遮りながらプライベートなテラスとして楽しめるようにしている。一方で北のバルコニーは、高台ならではの眺望を生かすためにフルオープンになる大開口にして景色を取り込んだ。南北いずれにも大きな開口があるので風が気持ちよく抜けていく。天井高はゆとりの約3m。さらに吹き抜けとなった階段ホールをつなげて、開放感あふれる空間とした。
インテリアはクウェストならではの自然素材を生かした巧みな構成とデザイン。ご夫妻がこれまで愛用していた家具と共に、大胆かつ優雅な空間を形成している。「家具や絨毯は私たちの好きな伝統的な意匠のものが多いのですが、だからといって空間全体をクラシックなものにしたかったわけではありません。重厚でありながらも、モダンな世界がほしかった」というSさん。可児さんからさまざまな提案を受けながら、最初はどういうものができるのかが見えずに不安もあったというご主人だったが、思い切ってすべてを任せることにした。結果として、それがよかったのだという。「自分たちで考えるより、提案されるものはやはりずっとカッコいい。さすが経験豊富なプロの視点です。完成を楽しみに待つことにしました」
建て主に似合う空間を考え抜き、そのイメージに最適で良質な素材を探し出し、デザインに落とし込む建築家と、その一つひとつを大らかに受け止め、ゴーサインを送る建て主。息の合ったコラボレーションが独創的で美しい邸宅をつくり上げた。
取材・文/酒井 新
S邸
設計施工 | クウェスト | 所在地 | 東京都渋谷区 |
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家族構成 | 夫婦+子供3人 | 敷地面積 | 180.47㎡ |
延床面積 | 327.51㎡ | 構法 | 木造SE構法 |