2022.11.21

伝統の知恵を生かし、ラグジュアリーに仕上げた進化系町家

奥行きのある敷地を生かし、上下にも広がるのびやかな空間に

SE構法で再構築した
洗練を極めた現代の町家

南北に伸びた長い敷地が京都の町家ならではの形状。H邸もまた伝統的な手法を取り入れ、中央の庭から光を届けている。「小さな坪庭でも採光は可能ですが、ゆったりと過ごせるテラスとしても活用できるよう、ゆとりのある広さにしています」とデザオ建設の佐藤三紀雄さんは語る。奥行きを感じさせる長い廊下も町家ならではの特徴。それを現代の技術により、ラグジュアリーな空間に昇華させた。1棟1棟、構造計算を行って強度を確認できるSE構法では、奥まで見通せるヌケが可能となる。例えば階段まわりのスペースも、柱で視界を遮らない開けた空間になった。
「大開口のビルトインガレージや、その大スパンの上部の段差もSE構法だからこそ実現できたことです」と佐藤さん。“大スパン”とは、柱と柱の間隔が広い大空間のことを意味する。H邸は、2台駐車できるガレージの上を同じく大空間のLDKとし、リビングをダイニングキッチンより1段低いダウンフロアにした。

床や天井に段差を設け
縦への奥行きも演出

LDKがホテルライクな洗練された空間に仕上がっているのは、縦方向への伸びも効果大。空間に変化をつけるのが難しい細長い敷地だが、床や天井の細やかな段差や、間接照明によりそれを強調することで、リズムが生まれた。また大判タイルや大理石のテーブルなど、光沢のある素材の役割も大きい。テラスや高窓からの光を受け、つややかに輝き、ラグジュアリーな雰囲気となった。
ゲストルームとなる和室もまた、伝統をモダンに進化させた遊び心あふれる空間。エントランスから見える入り口のふすまは和紙に木版手刷によって装飾した唐紙を採用。茶室のふすまなどで見られる、縁を見せない太鼓張りという手法でモダンな印象に。ダークグレーの壁の床の間、削ったままの風合いを楽しむなぐり加工の木材で畳を囲むなど、既成の概念にとらわれず伝統的な意匠を生活に取り入れた。和室もほかの部屋と同様、テラスから採光している。また天井に段差をつけ、ここでも縦への空間の広がりを意識した。

注文住宅ならではの自在さで
各空間をオーダーメイド

さらにH邸で特筆すべきなのはウォークインクローゼットの端正さである。ワードローブが整然と並び、まるでブティックのように美しい。「収納スペースでも薄暗くなく、日当たりの中で服を選べる心地よい場所にしたかったんです」とHさんは語る。税理士として各界の経営者と会う機会の多いHさんにとって、スーツはいわば戦闘服。ファッショニスタのクローゼットは、ある意味、趣味を楽しむ空間でもある。「シャツの枚数から、ネクタイやベルトの本数まで確認し、機能的に収納できるキャビネットを造作しました」と佐藤さん。綿密なプランニングの結果、機能的で快適なクローゼットが完成した。
その土地の持つ力を引き出し、住み手の願いをかなえられるのが注文住宅の魅力。「わがままに、こうしたい、こうありたいという思いをこちらにぶつけてほしい。それを形にするのが私たちの役目です」と佐藤さんは語る。理想の住まいは人それぞれ。自分たちにとって大切と思う空間、機能にとことんこだわる「ポジティブわがまま」は、理想の家づくりの近道となる。

取材・文/間庭典子

H邸
設計施工 デザオ建設 所在地 京都府京都市
家族構成 夫婦+子供2人+犬1匹 敷地面積 213.08㎡
延床面積 247.40㎡ 構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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