2022.09.05

清々しい空気を取り込む和モダンの家

日本家屋の知恵をうまく取り入れた令和の和モダンスタイル

個人宅とは思えないデザイン性
参道になじむ清廉な和モダンの家

三河安城の由緒ある神社の参道沿いというO邸のロケーション。背後には大きな鳥居が立つ。その迫力にも負けない個性が際立つこの住まいの外観。多くの人は美術館や公共施設などに間違えるという。アイコニックな三角屋根は、遠くからも目立つ。伝統的な切妻屋根の片面を短くした招き造りの屋根で、片方を長くすることで片流れの屋根のような天井高、屋根裏のスペースを十分に確保できる──などのメリットが得られ、モダンなデザインに仕上がる。窓を高い位置に設置できることで室内も明るくなり、プライバシーも守れる。
屋根と外壁には板張りをふんだんに使った。
正面から見た特徴は、屋根まで伸びてゆく縦型ルーバーだ。10m近くの長い1本の木に思えるが、匠の技で、木材のつなぎ目が見えないように仕上げている。「玄関扉の横に設置し、中庭を介してリビングへの採光、目隠しを兼ねています」と設計したkotoriの今泉順次社長。縦型ルーバーは横型に比べて、ほこりやちりが溜まりにくく、メンテナンスしやすい。また足掛かりとして登ることは難しいので、防犯面でも有効だ。「外からの視界は遮りますが、室内からは外の様子がうかがえるので安心です」と今泉社長は語る。

快適さと安らぎを最優先した
家族全員が拠点とするふるさと

この住まいの竣工を機に、北海道からご主人の出身地、三河に拠点を移したというOさんご夫妻。来年からはご主人のお母さまも同居予定で、一つの棟で世帯を分けた1.5世帯住宅のようなプランだ。玄関正面の和室を挟んで浴室や簡易キッチンも完備したお母さまのエリア、勾配天井を利用した大空間が魅力的なLDKの奥に夫妻それぞれの寝室を配した。多趣味で蔵書も多い夫妻はそれぞれの部屋の壁面を書棚にして書物を収納し、プライベートリビングや書斎のある寝室にしている。独立したお子さん2人のそれぞれの寝室も予備室として2階に。出張が多く、全国各地を商談や講演などで回っている多忙なご主人をはじめ、家族全員にとって拠り所となる、心からくつろげる空間づくりを心掛けた。
LDKは両サイドに開口があり、光や風が通り抜けていくような間取りに。お母さまの暮らすワンルームと和室、LDKをつなぐのは長く広い縁側。南側に広がる梨畑や田畑の借景も見事だ。「庭作業をしているときにふと休んだり、なかなか近所の方と室内で交流ができない時期には、縁側で寄り合ったりしましたね」と奥さま。札幌出身で湿度の高い本州の夏が苦手だったと語る奥さまだが、通気性が良く、高気密・高断熱による室内環境は快適だったそう。「この地域は北風が強いのですが、高めのRC擁壁を配置し、冷たい風と視界をシャットアウトしています」と今泉社長は解説する。

1年でわずか7棟の竣工に限定し
作品としてナンバリング

kotoriは、建設を年間7棟に限定し、既製品をできるだけ使わずに、地元の材や地元の大工職人による手仕事を生かした家づくりを進めている。「手掛けたすべての住宅の門には、ナンバリングが入っています」と今泉社長。まさにその一軒一軒が「作品」。社名には、人や子供が集まる里となる家、という「子と里」の願いが込められているという。「『できない』とは言わない建築会社」をモットーとし、O邸のように快適かつ独創的で、ふるさとのような空間を住み手に提供している。

取材・文/間庭典子

O邸
設計施工 kotori 所在地 愛知県安城市
家族構成 夫婦+母 敷地面積 499.89㎡
延床面積 251.01㎡ 構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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