【実例紹介】狭小住宅で失敗しない7つのポイントと、賢い収納で広さを活用するための間取り術

通勤・通学や買い物などの生活面でメリットの大きい都心部でのマイホームづくり。最大の悩みどころは確保できる土地の広さではないでしょうか。十分な広さと余裕のある家での暮らしに憧れる一方で、現実的には土地の値段が高かったり、周辺に建物が密集していたりと何かと制限が立ちはだかり、理想との折り合いをつけるのが難しいこともあるでしょう。そんな、都心部における様々な敷地条件の狭小地であっても、快適かつ理想的な住まいを実現するための工夫やポイントをご紹介します。
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1.狭小住宅のメリットー都心部で家が持て、税金が安く済む!
都心部の人気エリアは、一坪あたりの価格も高額のため、土地の購入だけでも多額の資金が必要です。しかし、都心部は、通勤・通学がしやすく、何かと周辺施設が充実しています。おしゃれなカフェのある繁華街や映画・美術館などの文化施設・娯楽施設にも気軽に行くことができるなど、簡単には諦めきれないほどの高い利便性があります。
都心部(人気のエリア)で便利な暮らしが叶うマイホームを持つことが、コンパクトな土地に建てる狭小住宅の最大の目的と言ってもいいかも知れません。
また、家を持つと発生する税金として「固定資産税」と「都市計画税」がありますが、狭小住宅であれば毎年支払わなければならない、これらの税金を安く抑えることができます。税額を決定する際、「固定資産税評価額」(単に「評価額」とも言います)に、税率をかけて算出します。この「固定資産税評価額」は土地の面積に応じて減額されるため、「小規模住宅用地」と呼ばれる200平方メートル以下の土地ならば、実はとても有利になるのです。
・固定資産税
小規模住宅用地―6分の1に減額した評価額×税率
一般住宅用地(200平米を超す部分)―3分の1に減額した評価額×税率
・都市計画税
小規模住宅用地―3分の1に減額した評価額×税率
一般住宅用地(200平米を超す部分)―3分の2に減額した評価額×税率
※東京都23区内の場合(税率は自治体によって異なります。)
また、家を建てることを法的に認めてもらう建築申請にかかる費用、土地や建物を自分名義にするための登記費用を安く抑えることができるのも狭小住宅の特徴です。家を建てるときに絶対にかかるイニシャルコストや毎年発生するランニングコストである税額を圧縮できることはとても大きなメリットです。
2.【狭小住宅で失敗しない7つのポイント】コンパクトな土地の問題点と工夫
人気の都心部にマイホームを持つことができるとはいえ、コンパクトな土地の問題点が気になる方も多いでしょう。そこで、狭小住宅の問題点をご紹介しつつ、それでも快適な住まいづくりができるように失敗しないためのポイントを解説します。
2-1.お隣の家が近い―防音対策は必須
住宅が密集しているエリアに家を建てるということは、その“住宅の群れ”に加わるということ。少なくとも2つの面が、多ければ4つの面が他の家と近くなりますし、お隣との距離も近くなるため防音対策は必須です。お隣の音が響いてくることを防ぐだけでなく、自分の家から出る音を遮断することにも気を遣わなければなりません。特に、お子さんが小さい場合やお子さんの人数が多い場合にはどれほど気をつけても騒音となるため要注意です。騒音はご近所トラブルの上位にもなる深刻な問題のため、家を建てる段階からきちんと対策を検討しましょう。
2-2.敷地ぎりぎりに建てて後悔―エアコン室外機やメンテナンスに問題が
民法の234条で「建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない」と定められているのをご存知でしょうか。これは火事の延焼やご近所トラブルを軽減することを目的として定められたもので、万が一違反した場合は隣地の所有者は建築の中止もしくは変更を求めることができます。
さらなる問題として、お隣との距離が近すぎた場合、例えばエアコンの室外機などの設置に困ることになるでしょう。というのも、ブロック塀と外壁の間があまりにも狭い場所に、無理に室外機を置くと換気不足の原因となる「ショートサーキット」という現象が起こり、空調効率が落ちたり、エアコンの故障の原因になることがあります。
また、将来的に外壁のメンテナンスが必要となった際、足場をかけなければなりませんが、この場合にも敷地ぎりぎりで建ててしまうと困ったことになることは想像にかたくありません。少しでも屋内のスペースを広くしたいと思ったとしても、そこで長く生活することを考えた計画をたてることが重要です。
2-3.縦に長くなる生活動線―後悔しないための間取りの工夫
狭小住宅は、ワンフロア当たりの広さが狭く、生活に必要な床面積を確保するためには、2階建て・3階建てにすることが多くなります。そのため、どうしても上下の動きが多くなるため、「生活動線」や「間取り」には工夫が必要です。例えば、キッチンや洗濯機置場は1階に配置し重たい物を持って階段の上り下りをしなくて済むようにしたり、キッチンやバスルームといった水周りを極力近くに配置して生活動線と家事同線の双方をコンパクトにしたりなど、実際のそこでの生活を想像して間取りを考えられると良いでしょう。
2-4.空間が単調になりやすい―見た目にも広々、収納スペース確保のためには
床面積がコンパクトであることのもう1つのポイントは、それぞれの部屋を壁で仕切ってしまうと、どうしても閉塞感のある空間になってしまうということ。平均的な規模の住宅でもそう感じるのですから、狭小住宅であればなおさら最初の工夫が肝心です。例えば、床の高さをずらし緩やかな空間のつながりをつくり出す「スキップフロア」は開放感を作り空間にリズムが生まれますし、吹き抜け部分をつくれば、開放感がありながら屋内の明るさも確保できるなど一石二鳥です。
2-5.縦に長く平べったい構造の弱点―地震に備えた工法
上記の通り狭小住宅は、2階建て・3階建てと縦に空間をとっていく事がほとんどです。そうすることで、地面に接している面積よりも縦の面積(高さ)の方が大きくなるため、横からの衝撃に弱くなりやすいと言えます。なぜなら、限られた面積(1階部分)で、2階・3階の自重を支えなければならず、そこに横からの衝撃が加わると、しなるように大きく左右に揺れてしまうからです。家族や近隣住宅の安全を守るためにも、RC造など通常以上に強度が出せる工法を取り入れると良いでしょう。
2-6.狭小住宅は実は割高?―建築コストが高くなることも
建物を建てる土地面積が小さいのだから、建築費用も割安になるとお思いではないでしょうか? 実は狭小住宅は、どうしても縦に長くなる設計になりがちで、中二階や地下室を設けたりすることで建築工数が増えるので、建築費用も上がってしまうのです。
また、お隣との距離が近いため足場をかけるためのスペースが充分でないということも人件費がかさむ原因となります。もし、地下室を設けるのであれば、土を掘り運び出す車・コンクリート圧送ポンプ車・クレーン車など一般の木造の家ではあまり使わない重機も必要となり、人件費や車両費がさらにかかってしまうことも考えられます。
2-7.家の高さに制限があることも―違法建築とならないために必要な「調整」
「高さ制限」(高度地区)という言葉をきっと耳にしたことがあるでしょう。土地は、都市計画法という法律によって用途地域が定められており、第一種低層住居専用地域とされる土地では、建物の高さが制限されているのです。健全な環境形成のために必要とされる制限なのですが、このような場所で2階建て以上の建物を建てるのであれば、各階の天井高を下げるなどの「調整」により、建物全体の高さを法律で決められた範囲内に収める必要が生じます。
また建築基準法では、近隣住宅の日照や風通しを確保するための制限を設けており、建物の設計は定められた範囲を超えないように計画しなければならないということもあります。そこで生じる問題として、天井から壁面に向かった急勾配(「母屋下がり」と言います)が、ときに部屋を使いにくくすることがあります。この不便を解消するためにもまた、各階の天井高の調整が必要になります。
また、天井だけでなく床でも調整・工夫することができます。一般的に、基礎の上に1階の床を設けますが、基礎高よりも低く(基礎の内部に)床を作ることで高さをかせぐことができるのです。ただし、あまりに低くしてしまうと床上浸水のリスクが高まりますのでご注意を。
3.狭小住宅でも後悔しない!有効な間取りとは?
これまでもご紹介してきたように、狭小住宅は生活できる面積が狭くなるため、通常以上に間取りの工夫が肝要です。せっかく便利なエリアに建てたマイホームで後悔しないためにできる工夫を見ていきましょう。
3-1.空間を完全に区切らない
寝室など、よっぽどプライバシーが求められる居室以外は、できるだけ壁で区切らないことで開放感を演出することができます。
特に人気があるのが、上記でも触れた「スキップフロア」。1.5階または2.5階をつくれば、緩やかにつながりつつも段差そのものが「区切り」としての機能を担ってくれるため、視界を遮ることなく空間を分けることができるようになります。段差も人の身長ほど大きくすれば、壁がなくとも1.5階ないしは2.5階はほぼ視界に入れないようにすることもできます。
また、「スキップフロア」のもう1つの利点は移動が階段だけで完結すること。階段と各層の一部を通過することで移動ができますので、廊下が不要となりその分を各層の居住スペースに当てて広くすることができるのです。一般的に廊下の幅は80センチとされていますので、この分を居室スペースに回すことができるのは、狭小住宅には大きなメリットだと思いませんか?
3-2.地下室を設ける
スキップフロアとあわせて、「地下室」「半地下室」を設けるのも一案です。地下室をつくると建築コストが少し高くなってしまいますが、長く住むことを考えて多少コストをかけても良いという考えであれば、必要な居住面積を「地下室」ないしは「半地下室」に担ってもらい、さらに空間を増やすことができます。
映画鑑賞や楽器演奏のための趣味の部屋にすることもできますし、湿気や雨に対応できる設備を設けて静かな寝室としても良いでしょう。
また、一定の基準下で設計された地下室は容積率に算入しなくてもよいとされているため、スペースの確保法としては充分検討する価値があります。
3-3.ロフトや中庭をつくる
狭小住宅だと、どうしても家そのものも小さく狭く感じてしまいがちになります。それを縦に伸ばす方法のひとつとして、ロフトを設けるという方法があります。ご存知の通り、ロフトとは居室の一部を高くして、2層にした部分のことを指します。
ロフトを設けるには天井までの高さが1.4メートル以下であることや、はしごを固定しないなどいくつかの条件がありますが、秘密基地のような寝室や収納、趣味のスペースを増やすことができるため、狭小住宅の工夫としては有効な手段です。
さらに、小さくとも中庭をつくることも選択肢の1つです。入り口が狭く奥行きが長い、いわゆる「うなぎの寝床」と呼ばれるような細長い土地である場合、明るさや風通しを良くする方法として中庭が活躍します。見た目に広さを感じさせてくれるだけでなく、小さいながらも家庭菜園を楽しむなど日常的に自然を感じることもできるようになりますよ。
4.狭小住宅での収納スペース創出法
狭小住宅では、収納スペースをどのように確保するかも悩みどころです。効率よく収納スペースを確保するにはどのような工夫ができるでしょうか。
4-1.暮らしに必要な「モノ」の見直し
スペースを確保するよりも先にしておくべきことは、自分たちが生活するうえで必要なモノがどれだけあるのかを把握し整理することです。極力少ないモノで生活ができるよう「断捨離」すると、持ち物だけでなく心も整理できるのではないでしょうか。「ミニマリスト」としてすっきりとしたシンプルな生活も素敵です。
4-2.「デッドスペース」の有効活用
意識しないと見過ごされがちなデッドスペースが意外とあることにお気づきでしょうか。例えば、階段の下部。なんと、ここにキッチンや書斎、トイレを設置するのはスペースの有効活用に適しています。もしもニオイや音が気になるという理由でキッチンや書斎、トイレにはしたくないのであれば、収納スペースとして利用するのも良いでしょう。
クローゼットのように閉じるタイプにすることはもちろん、見える収納として本や小物をオープンに収納するスペースにするのも素敵ではありませんか。階段の1段ごとに引き出しを設けるというアイディアもあります。日本古来の「階段箪笥」のように仕立てるのもこなれた和モダンを演出できますね。
また、収納スペースを確保しようとして、一部屋全面に大きなクローゼットを設けても結局手の届かない部分ができてしまうもの。それを逆手にとってクローゼットの一部を低めに設定してそこにベッドマットを納め、寝室にしてしまうという意外な方法もあります。
さらに、スキップフロアを採用するのであれば、その下部にも見逃したらもったいないデッドスペースが生じます。特に1階部分は、通常、人の出入りができる高さにはしませんので、こここそ上手に活用したい場所となります。
4-3.「見せる」収納法で生活用品もインテリアに
モノを目につかない場所に隠してすっきりさせるのももちろん素敵ですが、あえて見えるように収納するのも個性を発揮できる収納方法として素敵です。特にキッチン周りはうまくいけばおしゃれな雰囲気を醸しつつ、出し入れする手間を省くことができるため便利でもあります。
例えば、コンロ周りにフライパンやフライ返し(ターナー)などのキッチンツールを釣り下げてみるのはいかがでしょう。この時のポイントは色や素材を極力統一することです。
こうすれば、必要なモノにすぐ手が届くし、洗ったらすぐに掛けておけるうえ、キッチンツールのためだけの収納スペースをつくる必要がなくなります。
4-4.狭小住宅こそ選択すべきは「造り付け家具(造作)」
スペースがどうしても制限される狭小住宅を充実させるためには、造り付け家具(造作)がおすすめです。
上記のとおり、最低限必要なモノの量と、それをどこに収納すれば生活動線として効率が良いかの判断できれば、家を建てる段階で、棚やクローゼット、テレビ台、キッチン収納、とテーブルや収納つきベンチまで、ご家庭にマッチしたこだわりの家具を作ってもらえます。
もちろんそのための費用は別途で発生しますが、狭小住宅に合う家具がなかなか見つからない・家具が搬入しづらいといった問題を回避でき、ぴったりサイズの家具に揃えることで空間をよりよく活用することができ、居心地の良い部屋をつくることができるでしょう。
設計段階で建築士の目でデッドスペースを洗い出してもらえるだけでなく、内装全体のイメージを壊さないように考えてもらうことができるので、無理にDIYする必要もなく、入居と同時に必要な家具が揃った状態で生活をスタートすることができます。
5.【実例紹介】狭小住宅が魅力的である理由
様々な工夫を凝らした狭小住宅の事例をご紹介いたします。狭小住宅を検討されている方はぜひ参考にしてみてください。
5-1.狭小住宅とは思えない開放感を実現
各部屋の壁や天井高の調整でどうしても窮屈な印象になりやすい狭小住宅でも、大きな吹き抜けを設けて、遮る壁を廃した大空間を作り出しています。開放感あふれるマイホームの夢が叶った事例ですね。
5-2.設計の段階から計画的にスペースを確保
ロフトというと狭くて光の当たりづらい場所をイメージされるかもしれませんが、こちらの実例をご覧いただければイメージが一転するはず。広いだけでなく明るさも十分にあり収納スペースにしてしまうにはもったいないほど。居室としても趣味を楽しむプライベートな空間としても色々な楽しみ方ができる空間になっています。
5-3.土地条件を生かした地下ガレージ
通常、地下室などを設けるには、一般の木造住宅の建築では使用しないような重機が必要となるとご紹介しましたが、もともの敷地条件を上手く活用すれば賢く駐車スペースを確保することもできますよ。
まとめ
敷地面積に限りがあり、建築費用もかさみやすい狭小住宅。住むエリアの魅力や利便性、税金を安く抑えられるなどのメリットは、長く住むからこそとても大きいものでしょう。もしくは、生まれ育った土地で家を新たにするという安心感もあるかもしれませんね。そうであれば、注文住宅でとことん「理想の暮らし」を突き詰めてみてはいかがでしょう。
その土地の持つ性格や条件にそって、最大限のメリットを生み出すこと―。これが注文住宅の最も得意とする分野です。ここまでにご説明したことで、「狭小住宅はとても難しい」「思ったとおりの家は建たない」とお思いではありませんか。いいえ、決してそのようなことはありません。狭小な土地であっても、工夫次第でオシャレで快適な、あなただけの理想を凝縮した空間にすることができます。狭小地であるからこそ家づくりが楽しい、と思わせてくれる光景をどうぞご覧になってください。「注文住宅の楽しさ」にきっと驚かれることでしょう。